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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第94話 愛情と友情 
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 宇宙歴七九〇年 四月一〇日 バーラト星系 惑星ハイネセン

 出発する時は冬の真っ只中だったハイネセンも、すっかり春の陽気に包まれていた。
 
 激戦に次ぐ激戦。ほぼ全て戦力的に不利な状況下での連戦を潜り抜けて、被害は部隊の約四分の一。これだけの戦いをすれば普通は部隊の半数も帰還できないと考えられるだけに、宇宙港に帰還する第四四高速機動集団の将兵達の顔には疲労感の中にも僅かばかりではあるが明るさがある。

 だが司令部の面々が安穏としているわけではない。ハイネセン第二宇宙港に帰着早々、爺様とファイフェルが宇宙艦隊司令部に引っ張られたからだ。出迎えが憲兵ではなく宇宙艦隊司令長官付高級副官であったから即拘束・軍法会議というわけではないだろうが、第四四高速機動集団の司令無視に近い戦闘行動があっただけに予断を許さない。

「まぁその辺はシトレ中将が戻れば話が早いだろうが、くれぐれも行動と言動には気をつけてくれ」

 宇宙港のラウンジで解散前にそう警句したモンシャルマン参謀長の顔色は悪くはなかった。参謀長の経験からすれば大したことではないというところだろうが、シトレがハイネセンに戻るまでにはまだ時間がある。

 それにこの戦いで一応『勝利』したシトレには信望が集まるだろうが、同時に競争者もより先鋭化する。ライバルであるロボス、この戦いで地位を追われる時期が早まるかもしれないジルベール=アルべ統合作戦本部長、虎視眈々と要職を狙っているロカンクール統合作戦本部次長、そして軍内部に強力な軍閥の登場を恐れる国防委員会……他にも同志のフリをしている奴もいるだろう。彼らの牙が爺様に向かうとも限らない。

 すれ違う誰もが振り返るであろう栗毛の美人の奥さんが迎えに来たカステル中佐と、意味深なサムズアップを見せた後に霧のように人込みの中へと消えていったモンティージャ中佐と別れた俺は、ヤンとラップを待っていたジェシカが座っていた例の滝のベンチに腰を下ろした。

 周辺は帰還兵とそれを出迎える家族友人恋人などなど……参謀徽章を付けているとはいえ、何処にでもいるような青年将校がベンチに座っていても気にするような人はいない。大佐以上の将校は時折チラッと視線を送ってくることもあるが、俺が一人無表情でいるのを見て声をかけてくることはない。ただ一人、奥さんと五人のお子さんに出迎えられた第三部隊司令のネリオ=バンフィ准将だけ、離れた場所から笑みを浮かべて軽く手を振ってくれたので、俺も座ったまま小さく答礼して応えるだけだった。

 戦場で散った三万九〇〇〇余の戦死者の家族はここにはいない。カステル中佐や後方支援部が纏めた戦死者リストに基づいて、家族や申請者には『軍事公報』が既に送られている。両親、家族や恋人を含めれば一〇万人は下らない。その声なき怨嗟が、煌びやかな
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