第3部
ムオル〜バハラタ
父の軌跡・後編(ユウリ視点)
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ことを伝えると、船の修理に必要な材料を全て無料にしてもらうことが出来た。
港に戻って早速船へ向かうと、俺たちの到着を待ちわびていたかのようにヒックスたちが集まってきた。
「おかえりなさい、ユウリさん!」
俺は返事の代わりに荷馬車から荷を下ろした。他の三人も協力して一斉に船の前に並べる。
「ありがとうございます!! すぐに修理に取りかかります!」
ヒックスの言葉を合図に、他の船員も皆一斉に持ち場へ向かった。
「そんじゃあ、オレはこの荷馬車を返してくるわ」
「あ、じゃあ私も行くよ」
バカザルたちが船大工の店に行くのを見送ったあと、俺はずっと小脇に抱えていた親父の兜に目をやった。
あちこち傷が付いているが、防具屋の店主が手入れをしてきたからか、状態はかなりいい。だが、なんとなく装備する気にはなれず、片手を塞いでまでずっと持ち歩いていたのだ。何よりデザインが古くさくて、人前で身に付けるのは抵抗があった。
結局この俺とおふくろの名前しか刻まれていないメッセージの意図はわからないままだ。そもそもこんな一生訪れないかもしれない辺鄙な場所に兜を置いとく理由も不明だが、親父なりに考えがあったのかもしれない。……出会った人々の話を聞く限り、そこまで考えるような性格とも思えないが。
「ユウリちゃんは、お父さんが嫌いなの?」
「!!」
兜に気を取られ、すぐ横にシーラがいたことに気づかず一瞬身体をびくつかせる。
「……嫌いとか、そういう感情はないな。強いて言えば、『無関心』だ」
普段なら『お前には関係ない』と突っぱねるところだが、今日の俺は調子が悪い。こいつに助けてもらったこともあり負い目を感じた俺は、素直に心の内を吐露した。
俺の回答に、シーラは僅かに目を見張った。そしてすぐに寂しそうに俯く。
「そっか。ユウリちゃんらしいね」
何をもってこいつはこんなことを聞いてきたんだ? 彼女の意図がつかめず、俺は無言で彼女を見つめる。
「あたしもいっそ、無関心になれたら良かったのに」
その時、ダーマでの出来事が思い起こされる。こいつがダーマの大僧正である父親をどう思っているかは知らないが、少なくとも父親はこいつに愛情を持って接してはいない。本当は聡明な彼女も、その辺りはわかっているはずだ。
「お前は、父親のことを嫌いになれないのか?」
俺の問いに、彼女は閉口する。別に答えを求めているわけではないのだが、特に他に話すこともないので沈黙していると、
「……そうだね。あたしはただ、普通に家族として愛されたいだけなんだと思う」
そうためらいがちに答えた。
「そうか」
俺には父親なんていないも同然だから、父親に対する愛情なんてものは持ち合わせていないが、それが母親だと置き換えて考えたら、こいつの言うことも少しは納得できる。
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