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俺様勇者と武闘家日記
第3部
ムオル〜バハラタ
父の軌跡・後編(ユウリ視点)
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たんですが、どうやら忘れてしまったようで、私の店に置いて行ってしまったんです」
 その不思議な存在感に目を奪われた俺は、吸い込まれるように兜に手を伸ばした。俺の頭より一回り大きなその兜は、あちこち傷だらけではあったが、壊れてはいない。むしろちょっとした町の防具屋に置いてあるものよりもしっかりとした作りだった。
 ふと兜の内側を見てみると、小さく文字が彫られている。暗くてよく見えないが、目を凝らしてみるとそれは文章のようだった。
「どうしたの?」
 俺の様子が気になったのか、間抜け女も一緒になって兜を覗き込む。いや、だからなんでお前はそんなに近いんだ。
「えーと、『親愛なる妻エミリア、そして息子ユウリへ』」
『!?』
 その一言に、全員がはっと息を飲んだ。
「……ユウリ、って……」
 文字を読んだミオも、戸惑いを隠せない様子で俺の方を見る。
「ひょっとしてポカパマズさんて、ユウリちゃんの……」
 シーラの言葉の続きを、俺が引き取る。すでに答えはわかっていた。
「ああ、俺の親父だ」



 俺の父親……オルテガは今から十三年前、魔王を倒しに行くと言い、家族を残し単身旅に出た。それから三年後。俺が六歳のとき、本人が家族の元に帰ることはなく、アリアハンの兵士によってオルテガの訃報は伝えられた。このときの兵士の話が、今になって夢の中に現れたのだろう。
 そのときの俺は、生まれてから今までほとんど会ったことのない父親が死んだと聞かされても、悲しいと言う感情は湧かなかった。それよりも、俺の横で俯き、止まらない涙を必死に抑えている母親の方が心配だった。むしろ母親を泣かせたそいつの存在を、疎ましいとすら思っていた。
 訃報を受けたあと、母親は俺のことを想ってか、気丈に振る舞ってはいたが、どこか無理しているように見えたのを覚えている。
 対して同居している祖父は、息子が魔王討伐に失敗したとわかった途端、俺を次の勇者に仕立て上げようと奮起した。アリアハンの王国騎士団で兵をまとめていた祖父は権限もそれなりにあったのか、平気で兵舎に俺を連れてきては、自分の部下と俺を戦わせた。
 今思えば、魔王を倒すのに失敗した息子の汚名を、俺の名で晴らしたかったのかもしれない。もしくは息子を失った悲しみを俺と言う存在で憂さ晴らししていたのだろう。どちらにしろ、俺は今でもあのジジイに同情も尊敬も持つことはなかった。それほどまでにあのジジイが俺に向けた指導は、理不尽で非合理的で、耐え難いものだったからだ。
 だが皮肉にもジジイのおかげで、俺は嫌でもレベルを上げさせられた。十二歳でレベル25を越え、その三年後には30にまで達した。
 人間そこまで強くなると、自分が世間でどのくらい強いのか、嫌でも知りたくなってくる。それが自分の意思ではなくても、努力と時間を費やし
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