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冥王来訪
第三部 1979年
迷走する西ドイツ
忌まわしき老チェーカー その3
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 連合国側も馬鹿ではなかった。
リッペ=ビーステルフェルトの弱みは、NSDAPの正式党員という事であった。
その秘密を世間に明らかにすると脅しをかけて、その秘密会合の団体を作らせた面がある。
 彼を利用したのは、そればかりではない。
欧州の王室や産業界の重鎮と幅広い深交があり、 おあつらえ向きの仲介者だったからだ。
無論、リッペ=ビーステルフェルト公自身も、ビルダーバーグ会議を利用した面がある。
国際組織を隠れ蓑にして、第三帝国の再建をもくろんでいた節もあった。

「ビルダーバーグ会議は、第三帝国の世界征服思想の隠れた継承者って訳か……」
「そうみてもらっても構わん」
鎧衣は、初耳なので、驚きの目をみはった。
「しかし、蘭王室の最高権力者が、なぜ……」
「人間だれしも、手に入れた権力を使ってみたいという、潜在的な欲望があるからじゃよ」
そういった後、ゲーレン翁は、笑いだして、
「フォフォフォ……。
これがただの新興成金とか、マフィアの首領だったら、やりたい放題し放題。
だがよ……
蘭王室の王配殿下じゃ、何もできない」
 マサキは、何も言えなかった。
裏事情を聞いて何になるのだろう、という気持ちだったからだ。
「朝遅くに宮殿から執務室に行って、報告を2つから3つ聞いて、あとは何もすることがない。
国王じゃなくて、ただの女王の配偶者だからな……」
 饒舌に話すゲーレンを見ながら、マサキは新しいタバコに火をつけた。
如何に権力者や支配者となっても、何も出来ないことがあるかと、関心を新たにした。
「精々、どこかの役所の長を叱るぐらいが、関の山……
宮殿に帰ったら、善き夫、善き父を演じねばなるまい。
やはりなんにも出来んで、羽目を外すことが出来んだろう。
酒にしたたかに酔う事すらできずに、まずい飯を食って、品行方正に過ごす」
 一瞬、テーブルに座っているココットの方に目をやる。
さしもの彼女も、ゲーレン翁の話は初耳だったようで、黙って聞いている様子であった。
「権力がなければそれでもいい、金がなければそれでもいいかもしれない。
だが、金持ちからも有り余るほど持っていると来てる……」
鎧衣は、苦笑をゆがめて、
「しかも、今の地位に上り詰めるまで、かなりの荒事をやって来たとなると……
今の何も出来ないことには、我慢の限界が出てくるわけですな」
「そういう事だ」
 室内は、煙の濃度が異常に高くなっていた。
この場に同席している全員が、何かしらの方法で紫煙を燻らせていた為である。
「なぜ欧州各国の軍隊がF−4ファントムを止めて、F‐5フリーダムファイターを選んだか。
わかるかね」
「値段が安いからだろう」
「それは表向きの理由じゃ。
設備投資や整備の面を考えれば、ファントムの方が格安で、既
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