第3部
ムオル〜バハラタ
父の軌跡・前編(ユウリ視点)
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陰鬱とした空に光る幾筋もの稲光が、地上から最も空に近い火山の頂に現れては消えていく。それが空から発するものなのか火山雷なのか定かではないが、どちらにせよ人が生身で立ち入っていい場所でないことは明確である。そんな危険な山の火口付近に、一人の人影があった。
赤く弾ける炎の光が体格の良い人物の姿を映し出したと同時に、無造作に短く切った黒髪が熱風に煽られる。
その男は静かに機会を伺っていた。マグマの煮えたぎる音と熱気に包まれたこの状況では正確な判断など不可能に近いはずなのだが、常人ならざる力を身につけた男は全く気にならないようだ。
やがて、眦を決した男は間近にある火山の火口へと一歩踏み出すと、背中に背負っていた剣を抜いた。
刹那、男の前に立ちはだかったのは、大きな翼を持った魔物であった。魔物は大きく翼を広げると、剣を抜いた男に向かって突撃した。
だが、魔物が男のスピードについていくことは叶わなかった。並外れた身体能力によって繰り出された斬撃で、魔物は致命傷を負ったからだ。
最後の一撃が放たれ、魔物はそのまま地に伏す、はずだった。だが、この魔物の執念が尋常ではなかったのか、力尽きる前に最後の力を振り絞った魔物は、目の前の男に向かって、人間には聞き取れないような高周波を放ったのである。
これには男も堪らず耳を塞ぐ。だが、その一瞬の隙をついた魔物は、油断していた男に向かって牙を光らせた。
肉を抉る生々しい音が辺りに響き渡ると、男は意識を失った魔物と共に火山の火口へと落ちていった――。
「――リ、ユウリ!!」
何者かに体を揺さぶられ、俺は渋々瞼を開ける。
ぼんやりと映る簡易テントの天井に焦点を合わせようとしたが、突然間抜け顔の女が目に飛び込んできた。
「大丈夫? 随分うなされてたみたいだけど」
心配そうに俺の顔を覗き込んできたのは、間抜け女のミオだ。どうやら俺を揺り起こしていたのは彼女だったようで、俺が目を覚ますなり、わかりやすいほど大袈裟に安堵の息を吐いた。
俺はゆっくりと体を起こし、意識をはっきりさせるために二、三度頭を軽く振った。覚醒するにつれ、夢と現実の境界が明確になっていく。
――そうか、さっきのは夢だったのか。
だが、夢にしては妙にリアルだ。以前ルザミの島でガイアの剣について調べていたから影響されたのだろうか。まさか夢の中にまで火山が出てくるとは思わなかった。しかし、今回そこにいたのは俺自身ではない。見たことのない顔の男だったが、一体……?
「どうしたの?」
「うわっ!?」
俺が返事もせず考え事をしているうちにいつの間に近づいてきたのか、至近距離でミオがさらに声をかけてきた。相変わらず異性との距離感が滅茶苦茶なこの女は、俺が動揺していることにも気づかず間近で俺の顔を窺っている。
「
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