第四章
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「この流れで明日も勝ったら」
「王手でな」
「ほんま日本一になれるな」
「手が届くところに来られるな」
「どんでんやるやないか」
老人は笑って監督である彼を褒め称えた。
「あれは誰も思いつかんかった」
「そやな」
「だからこそボルテージ上がったな」
「まさかの投入やったさかいな」
「それで抑えたから」
「ずっと出てこんかった」
六月半ば以降だ、思えば長かった。
「誰も出るとは思わんかった」
「その人が出て抑える」
「それでファンのボルテージが上がらん筈やない」
「出て来ただけで上がったしな」
「いや、どんでんさんわかってるな」
「ほんまな」
「どんでんは生まれついての阪神人や」
老人は彼のそのことを指摘した。
「子供の頃からのファンでな」
「優勝のパレードの車にも乗ったんやったな」
「タチマニさんの息子か何かで」
「それでずっと阪神ファンで」
「それで阪神に入ってな」
「選手として活躍して」
「コーチも二軍監督もやってな」
そうしてというのだ。
「一軍監督は二度目や」
「まさに生粋の阪神人やな」
「阪神のことは何でも知ってるな」
「それこそわし等よりも」
「甲子園のこともわし等ファンのことも知ってる」
まさにそうした意味で阪神の全てを知っているというのだ。
「それだけにや」
「あの一手やな」
「湯浅を投入したな」
「それで抑えたら球場の雰囲気が一変する」
「わし等のボルテージが最高に上がると知ってのことやな」
「そや、あの人やからこそ打てる手でや」
それでというのだ。
「実際にや」
「打ったな」
「ほんまこれは大きいな」
「いや、大きな一勝や」
「何よりもな」
「若しかしたらやな」
老人はここでまたこの言葉を出してだった。
この日は帰った、だが。
第五戦目岡田はリードされている中でまた湯浅を出した、一度だけかと思えば二度目でまたしても球場のボルテージがこれ以上ないまでに上がり。
試合がひっくり返った、エラーをした森下がだ。
「打った!」
「打ったで!」
「二点差から六点取ったで!」
「八回一気に逆転や!」
「これで勝ったな!」
「王手や!」
そして実際にだった。
阪神は王手となった、第六戦では第一戦で打たれた山本が実力を発揮し完投勝利をもぎ取った、だが。
第七戦阪神は第二戦完封されていた宮城を攻略した、そうしてだった。
「いよいよや」
「遂にや」
「遂にこの時が来るわ」
「日本一や」
「阪神日本一や」
「三十八年ぶりや」
「アレが来るで」
老人は仲間達と共に言った。
「いよいよな」
「九回裏や」
「七対〇や」
「ここで負けたら逆に怖いわ」
「ましてこの雰囲気や」
「そして流れや」
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