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農家の敵
第一章

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                農家の敵
 夫の柏原豊の実家に来てだ、ともりは実家の仕事である農作業を手伝っていた、これは彼女が夫の実家に帰った時の常でこのこと自体は何とも思わなかったが。
 この時は猪を捕まえる罠を見てだ、彼女は暗澹たる顔になった。作業用のズボンと上着それに長靴と麦藁帽子で完全武装していて黒く短い髪の毛と丸い顔に大きなはっきりした目と濃く細い奇麗なカーブを描いた眉に赤い小さめの唇と大きな胸が印象的な一六〇位の背である。
「何これ」
「何って猪を捕まえる罠だよ」 
 夫の返事はあっさりとしたものあった。彼も妻と同じ格好である。茶色のセットした髪の毛でやや細面で太い眉と切れ長の目に形のいい唇を持っている。背は一七七位で痩せている。二人共外見は都会風であるが服装はそうなっている。
「捕まえないと畑荒らされるからな」
「だからなのね」
「ああ、ちゃんとな」
「罠用意してるの」
「それで捕まえたらな」
 夫はその時のことも話した。
「捌いてな」
「食べるのね」
「牡丹鍋なりカツなりステーキにしてな」 
 そうしてというのだ。
「食うんだよ、美味いぞ」
「猪はね」
 ともりもこの生きものの肉の味は知っていた。
「美味しいわね」
「固いし匂いはするけれどな」
「豚肉みたいでね」
「そもそも猪から豚になったしな」
「家畜化してね」
「だから捕まえたら食うんだよ」
「そうなのね」
「逆に言うと捕まえないとな」 
 さもないと、とだ。夫はさらに話した。
「畑荒らされるからな」
「捕まえないと駄目なのね」
「他には狐とか狸とか猿とかハクビシンとかな」 
 夫はこうした生きものの名前も出した。
「烏もいてな」
「多いわね。畑荒らす生きもの」
「多いよ、うち田んぼもあるけれど」
 そちらの話もするのだった。
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