第一章
[2]次話
やっぱりそうなった
その古本屋の評判はすこぶる悪かった、店の近所の高校に通っている与田界人も時々行くからよく知っていた。
「あそこのおばさんはな」
「いつもぶすっとしていてな」
「俺達来てもぞんざいな態度でな」
「本何処にあるか聞いても自分で探せ」
「自分はカウンターにいて座ってるだけでな」
「いらっしゃいませも有り難うございましたも言わないからな」
「折角いい本一杯あるのにな」
与田はこのことを残念そうに言った、卵型の顔できりっとした鉤爪型の眉に引き締まった唇と二重の切れ長の目を持っている。やや茶色がかった髪の毛はショートにしていて背は一七四位で青のブレザーとグレーのズボンと白いブラウスと赤ネクタイの制服が似合う痩せた身体である。
「それでもな」
「あのおばさんじゃあな」
「誰も行きたくないぜ」
「態度悪過ぎだろ」
「全く嗤わないしな」
「愛想の欠片もないだろ」
「あんなのでよく店やっていられるな」
与田はどうにもという顔で言った。
「本当にな」
「そうだよな」
「随分前から店やってるらしいけれどな」
「あの商店街で」
「けれど今商店街何処も危ないしな」
「あの商店街もそこそこ閉まってるしな」
そうした店が出て来ているというのだ。
「そんな中であれだとな」
「よく続いてるな」
「何で潰れないんだ」
「あんなおばさんがずっといるのにな」
「それ不思議だよな」
与田もそれはと言った、だが。
所属している陸上部の部活でこのことを話すと顧問の岡田治人小柄で日に焼けた痩せた身体の彼が言ってきた。
「あのおばさんなら俺も知ってるけれどな」
「そうなんですか」
「ああ、俺はこの学校に来て十年だけれどな」
「十年前からああですか」
「全然変わってないよ、店の本はいいけれどな」
それでもというのだ。
「あのおばさんはな」
「十年前からですか」
「ずっとだよ」
「あんな不愛想で態度も悪いんですね」
「はっきり言って客商売には全然向いてないな」
先生はこうも言った。
「本当に」
「誰が見てもそうですね」
「けれどな」
それでもというのだ。
「あれじゃあ潰れるな」
「潰れますか」
「潰れない筈ないだろ、というかな」
与田に言うのだった。
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