第三章
[8]前話
「若し今後この実を持って来た者が出たなら」
「褒美ですか」
「それを与えられますか」
「そしてその褒美は」
妖艶に微笑んだまま述べた。
「私自身よ」
「何と、イシュタル様と床に入る」
「その褒美を与えられますか」
「この度の戦の相手は駄目だけれど」
彼はというのだ。
「何しろ私を侮辱してのことだから」
「それは当然ですね」
「そもそも実も許しを得る為のものだったので」
「そうよ、けれどまたくれるのなら」
それならというのだ。
「いいわ」
「そうですか」
「そうされますか」
「ええ、そして他にもね」
女神はさらに言った。
「美味しい実を持って来て私を喜ばせてくれたら」
「床ですか」
「イシュタル様の床にですか」
「共に入ることを許すわ」
「わかりました、ではです」
「そのことを世界に知らせます」
従神達も応えてだった、そのうえで。
女神の前には常に多くの果物がある様になった、そこには当然イチイもあり。
女神は食し満足した時はその果実を持って来た相手と寝た、そのうえでこんなことを言ったのであった。
「イチイの赤は最高ね」
「それを見ただけで、ですか」
「そそられますか」
「この地にはないものだから」
それ故にというのだ。
「尚更そう思うわ」
「そうなのですね」
「そしてそのイチイの実を持って来たのなら」
「他の果物は私が満足したらだけれど」
自分と寝るという褒美を与えるがというのだ。
「イチイの実ならね」
「確実にですね」
「褒美を与えられますね」
「そうするわ」
こう言ってだった。
イシュタルはイチイを求め続けた、そしてそれを捧げる者は後を絶たなかった。メソポタミアの神々の話の一つである。
イチイの実 完
2023・7・14
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