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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第93話 カプチェランカ星系会戦 その4
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るという危険性に。

「小官に転属を薦めているのは、そちらが本音ですか」
「いや、こっちは本音じゃない。一因ではあるがビュコック司令が上官でいる限り、奴らは早々に暴走はしない」
「では一体?」
「『あの』バグダッシュが進んでバックアップしたいって、情報将校としてどこか螺子がすっ飛んだようなことを言わせる相手が、三〇代半ばで准将なんて地位で終わって欲しくはないんでね」

 いったいバグダッシュは情報部内部ですらどんな目で見られているんだ。マーロヴィアの俺の執務室にワインクーラーを設置して、飲み屋使いしていたバグダッシュの顔を思い浮かべた俺が溜息をつくと、モンティージャ中佐はいつものような軽薄な笑みを浮かべて肩を叩くのだった。





 三月五日。ほぼ予定通り、第一〇艦隊がカプチェランカ星系に進入を果たした。完全に合流するまであと一日、星系内航行しなければならないが、艦艇数一三〇五〇隻、兵員一四五万余。文字通り傷一つない戦力の到着は、味方の士気を十分に高めた。星系外縁部に集結していた帝国艦隊の一部の撤退も確認され、ほぼ星系全体の制宙権は確保されたと言っていい。

 地上軍の進行状況も順調だった。吹雪がひたすら続く劣悪な気象条件故に、宇宙空間や対地攻撃艇による上空からの攻撃の効率は悪いが、完全な制宙権下にあることで気象衛星と地上探知衛星の組み合わせによる索敵とマッピングが実施され、ディディエ中将は発見された帝国軍の前線基地を各個撃破している。

 一度だけ、地上軍のジャワフ少佐と連絡を取り、俺はモンティージャ中佐とブライトウェル嬢と一緒に、惑星カプチェランカに脚を下ろした。
未だ戦闘中ということで中佐が望んでいたような地形測量や地質調査などは出来なかったが、天然資源採掘プラントで働く民間人を『戦時捕虜』として捕えており、その回収は第四四高速機動集団が第八艦隊から任されたとあって、以降戦艦エル=トレメンドで中佐はウキウキで民間人に『尋問』している。
 さらにSサイズの戦闘装甲服を着た女性軍属など、(特殊趣味な映像を除いて)めったにお目に掛かれないとあって、オタサーの姫ならぬ陸戦部隊の姫扱いになったブライトウェル嬢が、熟練兵達にけしかけられた新兵相手のワンサイドタッグマッチでほぼ全てに勝ってしまい、表敬訪問先のディディエ中将に怖い顔で両肩を何度も叩かれていた。

 そして三月一八日。先発した第三五九・第三六一独立機動部隊に続き、第四四高速機動集団はカプチェランカ星系を後にする。予定より半月ばかり早いが、戦闘が優位に終了したこともあって第四艦隊出動の臨時予算承認が下り、被害の大きい部隊から撤収することとなった。

 一〇〇万将兵の命と引き換えに、極寒の惑星をかろうじて同盟軍が手に入れただけの戦いが終わった。

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