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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第93話 カプチェランカ星系会戦 その4
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が、その手軽さゆえに簡単に太ると評判の『メタボメーカー』と言われている。

「とりあえず勝ちは得られた。シトレ中将も、そのシンパも一安心といったところだろう」
 その口調には剽軽で人受けのよさそうな顔とは全く正反対の、皮肉のスパイスがべっとりと塗られている。
「そのシンパの一人と言われている小官に、言える中佐もなかなか大したものですね」
「貴官がシトレ中将の熱烈なシンパだとは到底思えないからな」
 そういうと座っている俺の左肩に手を置き、モンティージャ中佐は顔を近づけ、声を潜める。
「一〇〇万人だ」
「……ええ」
「平和主義者で人道主義者の君としては、この戦いの戦略的な意義を理解しつつも、シトレ中将の襟の星の数が一つ増える対価にしてはいささか大きすぎると思ってるだろう?」

 明らかに挑発的な言葉遣い。顔見知りの情報将校でなく民間人に、街角のバーで同じようなことを言われたら、俺は果たして怒りを抑えられるだろうか。理不尽な怒りであることは承知の上で、俺は何も言わずに間近にあるモンティージャ中佐の糸のように細い目を睨みつける。口から下がっているチューブが全く雰囲気を中和しないほどに中佐の顔は冷たい。恐らく一〇秒に満たない時間だったが、三〇分以上に感じられる沈黙と緊張は、中佐の方から切られた。

「いい顔だ。俺はそういう顔をする貴官は嫌いじゃない」
「中佐」
「あぁ、恋愛的って意味じゃないぞ。誤解するな。残念ながら俺は貴官の向ける愛には応えられない」
 中佐の目が糸からドングリに変わったが、纏う雰囲気はほとんど変わらない。手を振りながら立ち去ろうとする中佐に、俺は声をかける。
「中佐、一つだけ質問をしてもいいですか?」
「さぁて。応えられるかどうかは保証しないが」
「中佐がイェレ=フィンク中佐や第八七〇九哨戒隊の面々を、必要以上に警戒しているのは何故です?」
 一瞬、中佐の右眉が吊り上がったが、それもすぐに元の位置に戻ると、小さく鼻息を吐いて笑みを浮かべたが、口から出てきた言葉は辛辣だった。
「あれは薬にならない毒だ」
「は?」
「制御のきかない過大な忠誠心は、忠誠の対象を害する危険性が高い。ある日突然、命じられてもいないのに主人の競争相手の首を獲ってきました、などということもありうる」
「……それはブライトウェル嬢にも言えることでは?」
「銃で貴官が狙われた時、嬢ならば身を挺して貴官を守る。八七〇九の連中は周囲で銃を手に持つ全ての人間に危害を加える。敵味方関係なくな」

 それは結局のところ俺自身を害することに繋がる。エル=ファシル奪回戦後に言外に言ったつもりだったが、第八七〇九哨戒隊の俺に対する忠誠心は、中佐の警戒を呼び起こすのに十分だったのだろう。いやむしろ俺の心配というよりは、軍隊の中に私兵組織が存在す
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