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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第93話 カプチェランカ星系会戦 その4
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 通信文を持ったままファイフェルがそう告げる。既に第四四高速移動集団は、帝国軍中央部隊が最初に布陣した宙域を突破し、第八艦隊第四部隊がその左翼に並行布陣している。爺様はファイフェルの報告に口に出しては何も言わなかったが、小さく左手を上げてそれに応えると、爺様の傍に立つモンシャルマン参謀長が小さく咳払いをしてから言った。

「機動集団全艦戦闘停止。現在位置で停止の後、命令系統の再編を行う。戦隊毎に状況を報告させ、それに合わせてそれぞれ仕事をしよう。諸君、何か意見はあるかね?」
 俺もモンティージャ中佐もカステル中佐もファイフェルも、これからやることは心得ている。幸いにして勝ち戦ではあるし、支援部隊に大きな損害はなく物資にも余裕はある。だが結局のところこの中では明らかにダントツで仕事量の多いカステル中佐が手を上げた。
「よろしければ次席参謀と司令官付従卒を、一時的に補給部署へご配置願いたい」
「だ、そうだが、ボロディン少佐?」
 モンシャルマン参謀長が視線だけこちらに向けて言う。カステル中佐としては猫の手も借りたいところだろうが……
「協力したいのはやまやまなのですが、部隊再編成と集団戦闘詳報の集約がありますので、それが終わってからでよければ」
 これらはまず三時間以上はかかる仕事だ。到底、カステル中佐の仕事を手伝う余裕などない。しかし俺を見るカステル中佐の顔に奇妙な笑みが浮かんでいるのはどういうことだろうか。
「ではブライトウェル伍長は借りていいな?」
「ブライトウェル伍長は小官の部下ではなく、司令官直属だと思われますが?」
 俺の部下じゃなくて、断りなら爺様に言え、そう言ったつもりだがカステル中佐は俺ではなく後ろに首を廻して応えた。
「だ、そうだ。ブライトウェル伍長」

 その視線の先には、主人に散歩を断られた犬のようにションボリとした表情でたたずんでいる、ブライトウェル嬢がいるのだった。





 二月二八日 一四〇〇時。第四四高速機動集団の部隊の再編はほぼ終了した。

 現時点における第四四高速機動集団の所属残存艦艇数は一九一九隻。そのうち戦闘艦艇は一六三〇隻で、即時戦闘可能艦艇は一五四八隻と集計された。応急修理で再び戦闘可能になると推定される艦艇も含めれば一五八九隻となる。
 輸送艦や工作艦を含め、エル=ファシル星系からの損失率は二三.四パーセント、戦死者三万九〇〇〇人余、負傷者は二万五〇〇〇名余、死傷率は二六.五パーセント。やはりアトラハシーズ星系でメルカッツに、乗員の多い戦艦を狙われたことが将兵の戦死者数を押し上げた。病院船がフル稼働して負傷者の治療に当たっているが、肉体的には健常であっても精神的には無理な将兵もいることから、一五八九隻が完全に戦闘能力を維持できているかどうかは不安が残る。

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