第93話 カプチェランカ星系会戦 その4
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艦隊第四部隊の参謀長より、当司令部あてに秘匿通信が届いております。如何なさいますか?」
その言葉に俺は、爺様を囲んで立っているモンシャルマン参謀長とファイフェルに視線を送る。秘匿通信とは尋常な話ではない。ぶっちゃければ現時点で第八艦隊司令部に聞かせられない話をしたいということだろうが、戦地における軍事通信である以上、記録には残る。この場合指揮系統を無視した話になるので、はなはだ都合が悪い。以心伝心で動いてくれた第八艦隊第四部隊が、敵の傍受にも晒される可能性のある超光速通信で話がしたいというのは、どういう事か。
「参謀長か……」
爺様が一度モンシャルマン参謀長に視線を送るが、なにかを悟って動こうとする参謀長を手振りで抑えると、司令官席のモニターに直接接続するよう、モンティージャ中佐に指示した。中佐が自席に戻って数秒後、爺様専用のモニターの片隅に、鹿毛の角刈りで眉が細く碧眼の、顎が角ばった中年士官が現れた。
「第八艦隊第四部隊参謀のライオネル=モートンであります」
やや嗄れてはいるが、経験と自信に満ちた声と共に、画面に映るモートンは爺様に向かって敬礼する。まだ目尻に皺はそれほどよってはいないが、間違いなくその顔は『次の』第八艦隊で副司令官だったモートンそのまま。爺様やカールセン同様、士官学校を出てはいないが、沈着で忍耐力に定評のある指揮官……だったはずだ。第四部隊の的確な連動や、機敏な移動と砲撃指示の根源はもしかしたらこの人の助言があったからかもしれない。
だがそれだけに秘匿通信であえて上級司令部を飛び越して第四四高速機動集団に通信を打ってくる理由はなんだろうか?
「第四四のビュコックじゃ」
爺様も不信を抱いており、答礼はゆっくりで何を言いたいのか推し量るようにモニターに向かって厳しい視線を送っている。
「左か、上か、下か」
何がという主語もない爺様の問いに、画面の中のモートンは小さく細い眉を動かしただけで、まったく表情を変えずに答える。
「下でお願いいたします。」
「よろしい、分かった」
それだけ応えると、爺様は敬礼をするまでもなく、あっさりと通信を切った。防諜を考えてのことだろうが、あまりにも短いやり取りに唖然とせざるを得ない。だがモンシャルマン参謀長はすぐに心得たようで、俺に何気ない視線を向ける。
「ボロディン少佐、どうやらこの戦場では『通信の乱れ』が激しいようだ。いいね?」
「……了解いたしました」
「それと少しだけ当集団の陣形を右方向に広げたい。可能な限り早く」
つまり現在第四四高速機動集団の右舷後方に位置している第八艦隊第四部隊が、第八艦隊の戦列を離れて戦闘宙域水平面に対して下方に移動して敵中央艦隊を攻撃するということだろう。有効な攻撃手段であることは間違いないが、第八艦
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