第130話『なりたい自分』
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「もしこれがなくなったら、何の特徴も無い僕のことなんか誰も興味を持たなくなって、友達がいなくなるんじゃないかって不安で……」
狐太郎の一抹の不安。それは決して小さくない悩みだ。
もはやトレードマークと呼べるほど、狐のような耳と尻尾は彼に馴染んでしまっていた。最初はそれ目当てで彼に近づいた人もいるだろう。だからそれを失うことで、交友関係が崩れてしまうと思ってしまうのは仕方のないことである。しかし、
「そんなことないよ。みんな狐太郎君の外見だけで友達になってる訳じゃない。優しくてちょっと引っ込み思案だけどやる時はやる、そんな狐太郎君の中身も含めて、みんな狐太郎君のことが好きなんだ」
「何ならみんなに訊いて来ようか」とおどけてみせた。これは晴登の本心であり、みんなの本心でもあると信じている。狐太郎は人としてとても好ましい。だから自信を持って欲しいと常々伝えているのだ。
「なりたい自分になっていいんだよ」
それが、晴登が狐太郎に最も伝えたいことだった。自分を変えることに不安が伴うのは当然のことだ。でも、それを手助けするために晴登がいる。狐太郎がどんな答えを出そうと、それを尊重するつもりだ。
「僕は──自分を変えたい」
「うん」
意を決したように、狐太郎は答えを口にした。その答えを待っていたかのように、晴登は頷いて応える。
「困っている人に手を差し伸べられるような強さを持った、三浦君みたいな人になりたい」
「うん……うん?」
「魔術部に入ったら、もっと三浦君に近づけるかな?」
「え、あれ、そんな話だったっけ?」
『自分を変えたい』というのは外見の話だと思っていたのだが、いつの間にか彼の中では内面の話に変わっていたらしい。
しかし彼の瞳を見れば、決してふざけている訳ではなく、目の前にいる憧れの人を目指してやる気を漲らせていることは言うまでもなくわかる。
だったら、ここでわざわざツッコミを入れるよりかは、質問に答えてあげた方が良いだろう。
「……なれるよ。君はもっと強くなれる」
「そっか。……決めた、僕は魔術部に入るよ。これからもよろしくね、三浦君!」
「こちらこそよろしく、狐太郎君!」
途中で話がすり替わって動機がズレたとしても、狐太郎が自分を変えようとしている事実に変わりはない。だからもちろん彼の入部は大歓迎だ。天野に続いて、また仲間が増えてとても嬉しい。
彼を立派な魔術師にする。それがこれからの晴登の目標だ。
「──ところであんたたち、その格好って出し物の途中なんじゃないの? ここで油売ってていいの?」
「はっ! ヤバい、急いで戻らなきゃ! 行こう、狐太郎君!」
「う、うん! お父さん
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