第三章
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今は一線を退き野球評論家として活動している西本が佐々木のところにスーツ姿で来て笑顔で言っていた。
「恭介、頼むで」
「はい、やらせてもらいます」
佐々木はその西本に確かな声で応えた。
「近鉄を絶対にです」
「建て直してやな」
「まや優勝させます」
「そうしてくれるか」
「わしの出来る限りのことをします」
こう言ってだった。
佐々木はその言葉通り全力を尽くした、だが。
結果として力及ばずだ、打線は建て直したが。
「投手陣がなあ」
「佐々木は元々バッターやしな」
「打撃コーチとしては阪神で定評があったが」
「ピッチャーのことはわからんのやな」
「そのせいか投手陣がな」
「全然あかんわ」
「お陰で最下位や」
彼の最後のシーズンはそうなってしまった。
「必死なのはわかるけど」
「チームのことを考えていたけどな」
「それでもな」
「力及ばずやったか」
ファン達は辞任した彼を見て話した、だが。
彼が辞めた二年後だ、何と。
彼が監督を務めた最後のシーズンと翌年最下位だった近鉄は優勝した、この時彼が監督になった時中学生で今大学生になっている彼はこの時は初老になっている年配のファンに言った。
「近鉄優勝したんは打線の力が大きかったな」
「ああ、いてまえ打線のな」
「あの打線建て直したのは」
「やっぱり佐々木やな」
監督だった彼だというのだ。
「バッター大体同じ顔触れやろ」
「佐々木さんの時と今は」
「ローズに中村、大村に水口ってな」
「そう思ったらな」
「佐々木がな」
その彼がというのだ。
「ちゃんとな」
「優勝の下地築いてくれてたな」
「ああ、最後は最下位やったが」
「そうしてくれたな」
「確かに監督として至らんとこはあった」
佐々木、彼はというのだ。
「そやけど優勝の下地はな」
「ちゃんと築いてくれたさかい」
「ちゃんとやってくれた」
「そう言うてええな」
「そや、そう思ったらな」
年配のファンはさらに言った。
「背番号六十八、西本さんの背番号を受け継いだことも」
「介があったんやな」
「そう言うてええやろな」
「そやねんな」
「ああ、チームが優勝したんは事実やからな」
近鉄、このチームがというのだ。
「そう思うとな」
「あの人は背番号に恥じん仕事した」
「そう思うわ」
大阪ドームで優勝に沸く近鉄ナイン達を見て話した、佐々木はこの時西武ライオンズのヘッドコーチだったが一人そのことを喜んだ。猛虎の時の背番号は西本のものではなかったが背中には今もその背番号があった。
背番号六十八 完
２０２３・３・１２
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