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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第92話 カプチェランカ星系会戦 その3
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らの砲撃に対応するというのは、誰がやろうとしても困難な事業だ。運用を指示できるフィッシャー師匠のような参謀が仮にいたとしても、アッテンボローのような別働戦力として粘り強く抗戦を指揮できる副指揮官がいなければ、統制をとることは相当難しい。

 そしてヴァルテンベルクには見る限り、どうやらそのような存在は居ないようだった。隣接する巡航艦戦隊同士が互いに後退しようとして交錯し、回避しようとそれぞれが転舵した先は、戦艦戦隊が防御火力を展開しようとした射線範囲だった。船体真横から戦艦の砲撃を受けて巡航艦が無事でいられるわけがない。シャチの群れに追っかけまわされるイワシの群れのように、あちらに逃げこちらに逃げと動き回るので、別の戦隊の戦列も乱れる。

 爺様はその動きを見逃さず、モンシャルマン参謀長に砲撃を指示する。戦艦基準の砲撃指示を俺が集団砲撃指示に翻訳し、ファイフェルがそれを集団各艦に伝える。爺様と参謀長の的確な砲撃指示と集団各艦の統制の取れた砲撃によって、第四四高速機動集団は円錐陣形を維持しながら、かつてのマーチ=ジャスパーの如くチーズをナイフで切るように帝国軍右翼部隊は分断された。

 分断されたうち第八艦隊第四部隊と第四四高速機動集団に挟まれた側の一片は組織的な抵抗能力を失い、個艦単位で散り散りになって戦線を離脱していく。もう一片の側には旗艦である戦艦オスターホーフェンの所在が確認されていた。その数は一二〇〇隻に達しない。彼らは秩序を維持しつつも、戦意を喪失し後退している。

 この時点で同盟軍と帝国軍、どちらが勝っているかなど誰も分かりようがなかった。戦艦エル=トレメンドのオペレーター達が纏めてくれたデータを整理しても、天頂方向から見れば右横に引き延ばされたMの字の真ん中から左の部分が鈍角に折れ曲がっているような、なんと形容していいか分からない前線模様になっている。通信・連絡線はぐちゃぐちゃで、同盟軍から見て右翼方向は押しに押されて崩壊寸前だが、左翼方向はほぼ一方的に蹂躙している。

 幸い蹂躙側にいる第四四高速機動集団としては、掃討戦をすることなく、進路を維持して帝国軍中央部隊の右側面を攻撃に掛かる。だが前方に広がる中央部隊の後衛を見て集団司令部は唖然とした。

「なんでこれほどの数の支援艦艇がこんなところにいるんだ……」

 カステル中佐がメインスクリーンに映る、まさに慌てふためいて「後方に」逃げ出していく帝国軍輸送艦と工作艦を目にして零した。本来なら戦闘宙域外、第四四高速機動集団の左舷一〇時一〇分の方角にある一団が、後方支援集団であるのが常識だ。モンティージャ中佐が慌ててその集団に対して光学測定を行うと、そこには何の姿もない。映像に映らないほど小さく、それでいて重力波や熱源をまき散らしている……第八七〇九哨戒隊が観測したと
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