第92話 カプチェランカ星系会戦 その3
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、交戦星域全体を見渡す必要がある制式艦隊司令官としては失格だ。対峙していた敵戦力が半減したことを、老練なメルカッツが見逃すはずがない。別動隊の足が止まったタイミングを見計い、漫然とした後退から傲然とした前進へと動きを変えた。しかも僅かに左斜陣形を形成し、対峙する部隊と別動隊を抑えた部隊の薄い間隙を圧迫しようとする。
それに対峙せざるを得なくなった第三五三独立機動部隊と第四一二広域巡察部隊は、本来ならば密集隊形を作り上げ防御を固めたいところなのに、第三五九と第三六一が抜けた穴に潜り込まれるのを阻止する為、いずれ第八艦隊から後詰が来ることを信じて中途半端に陣形を広げざるを得ない。だがそれこそがメルカッツの望んでいたことだ。敢えて受信量を絞っているので情報は入ってこないが、光学的観測だけでも両部隊の陣形内部に煌めく輝きの数は著しく増加している。
「おそらく右翼戦域において宙雷艇とワルキューレによる近接戦闘が展開されていると思われます。このままですと右翼を起点として、同盟軍全部隊が半包囲されるのは時間の問題かと」
俺はメインスクリーンの右端に映し出された標準時刻を見た後、爺様に言った。
「ヘクトルに再度、意見具申なされますか?」
別動隊が後方に現れるまでの間に、俺は二通りの具申案を準備した。一つは常識的に一斉右舷回頭し第八艦隊の後背をすり抜けて、第三五三と第四一二の後詰にむかうか第五分艦隊の右側面から前進し別動隊の左側面を攻撃する案。
もう一つは爺様の望み通り、全速前進し半包囲を試みようとする帝国軍右翼部隊の機先を制し、あるいは突破して帝国軍本隊後方に躍進する案。爺様もセコセコと自席で端末を弾いていた俺の姿を見ているわけだから、察してはいるだろう。
「儂は勝ち筋が見えている戦いで、負けないことに努めるのは苦手な性質でな」
僅かに生えた無精ひげを撫でつつ、爺様は鼻息荒くはっきりと口にした。
「ヘクトルには『仕事しろ。我々もこのように仕事をする』と添付の上、攻撃案のみ送れ」
まるで上官に向かって中指を立てるような返答。経歴はどうあれ、この戦場における最先任士官はシトレである。そんな返答をすれば、あとでどんな処分が下されるか分かったものではない。だが意志の硬さ(頑固)と即断即決(短気)では折り紙付きの爺様だ。本気も本気だろう。爺様の肩越しにある、長い付き合いのモンシャルマン参謀長の顔は平常通り。一方でファイフェルの顔色には微妙な諦観が含まれている。
「強襲戦闘じゃ」
爺様は未だ衰えを見せぬ矍鑠とした動きで司令官席から立ち上がり命令を下す。爺様の意思はパストーレやむ―アらが後退する前に示されている。命令が下ってから自分の行動を考えはじめるような幕僚は、既に第四四高速機動集団司令部にはいない。モンシャルマン参謀
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