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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第92話 カプチェランカ星系会戦 その3
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 そして俺は何の因果か士官学校首席卒業者だ。爺様達叩き上げから見れば、エリート中のエリートというところだろう。先のエル=ファシル奪回戦では散々中級指揮官達のヘイトを稼いだ。俺も順調にいけ好かないエリートの道を歩んでいるのだろうか。

「ジュニア」

 いつの間にか意識を飛ばしていたのか、爺様は俺の正面に立ち両肩に年季の入った手を置いて俺を揺すっている。陣形変更の命令はモンシャルマン参謀長がファイフェルを通じて出しているようで、周辺視野の端っこにいる。モンティージャ中佐もカステル中佐も、自分の席で自分の職責を全うしている。恐らく一〇秒かそこいらだろうが、作戦中に意識を飛ばすなど士官として言語道断の所業だ。だが意外なことに爺様の表情には、先程の気迫や怒りというモノが全くない。

「シニアやクブルスリーから聞いておったが、ジュニアにはなかなか不思議な悪癖があるのう。傍から見ると普通にしているように見えるから、余計に怖いんじゃが」
「申し訳ありません」
 俺が慌てて腰を直角に曲げ頭を下げると、爺様はまさに好々爺らしい笑みを浮かべて、よいよいと手を振っている。
「儂が余計なことを言ったからじゃ。気にせんでよい。じゃが貴官が一部隊を率いる時には、それなりに気の利いた副官を用意した方がいいじゃろうな」

 そういう爺様の悪戯っぽい視線は、俺の顔ではなく肩口を超えていた。振り向くと七歩ほど離れた先に、アイスコーヒーを二つお盆の上に乗せているブライトウェル嬢の姿があるのだった。





 それから三〇分後。第四四高速機動集団がそれほど時間をかけずに陣形を円錐に変更完了した後、ようやくヘクトルから具申に対する返信が来た。

「『一考に値する意見なれども、現状の陣形と戦力で対処は可能』以上です」

 呆れてものが言えないと言わんばかりのファイフェルの口調に、爺様は何もしゃべらずに司令席でメインスクリーンを見つめている。敵が後退を続けている戦況に変わりはない。だが既に戦域は惑星カプチェランカの衛星軌道からはずいぶんと離れてしまった。
 重ねて意見具申しますか、とファイフェルが俺に向けて無言で視線を送ってくるが、俺は首を振る。もう爺様は織り込み済みだ。言質を取った、責任は第八艦隊司令部にとってもらう。数分の沈黙の後、爺様はモンティージャ中佐を呼んだ。

「第八七〇九哨戒隊に暗号通信できるか?」
「可能です。ですがなるべく短文でお願いします」
「『戦線離脱許可・可能なら左翼方向より離脱せよ』で発信せよ」
「……了解しました」

 イェレ=フィンク中佐に含むところというよりは、第八七〇九哨戒隊に対して思うところのあるのか。モンティージャ中佐の返答が遅れたのは明らかだった。戦線離脱許可ということは、命令統制から外れて独自に
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