第92話 カプチェランカ星系会戦 その3
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会戦が始まってから一〇時間以上続いた砲撃戦。大なり小なり損傷した艦艇もあるだろう。だが戦闘行動に支障がない程度の損傷ならば、まずは自艦の応急班で対応する。わざわざ後送したりはしない。
「偽装後退による別動隊の再編成と考えてよいと思われます。至急、上級司令部に前進攻撃の停止と索敵範囲の拡大、惑星カプチェランカ衛星軌道上での陣形再編を進言すべきと、小官は具申します」
「ジュニアはその別動隊が、我が軍の右翼部隊後方ないし側面に出現し、挟撃体制を取る、そう言うんじゃな?」
「はい」
「よかろう。早急に上申書を作成し、提出せよ。儂が署名する」
上申書に署名するということは、ある意味では功績を横取りすることだ。それでも俺の名前では採用されないかもしれないが、爺様の名前であれば嫌だろうが第八艦隊司令部も聞く耳を持ってくれるかもしれない。状況は一刻を争う。爺様もそれを理解して、敢えて無理を言っているのだろう。
俺が上申書のテンプレから、現実と状況報告と上申内容をできうる限り簡潔に纏め爺様に提出したのは五分後。それをモンシャルマン参謀長が黙読二分。最後に爺様が三〇秒で斜め読みし、端末画面にペンでサインを書き込んだ。ファイフェルはその端末を預かり、暗号変換にかけた上で戦艦ヘクトルの司令部へと直接送信する。
「モンシャルマン」
横目でファイフェルの行動を睨みつつ、爺様は聞く者の体を震わせるような迫力のある声で参謀長に命じる。
「戦列を組み替える。円錐陣形じゃ」
「円錐、でありますか?」
参謀長の疑念も俺は当然と思った。明らかに前進・攻撃用の陣形で、紡錘陣形に比べれば局所火力と突破力に乏しいが、方向転換と機動性においては勝る。アトラハシーズ星系で帝国軍の後背をえぐり取る戦いで、第四四高速機動集団は経験済みだが、敵は前方遥か彼方にいる上、たった今第八艦隊司令部に上申した内容は別働隊による右側背への攻撃を危惧するものだ。
むしろこのまま集団を部隊毎に右斜に並べ、敵別動隊が同盟軍右側背に現れたタイミングで九〇度右舷回頭、第八艦隊の後背を直進して別動隊の鼻面を叩くのがベターではないか?
爺様と参謀長の会話に無理やり割り込むような形でそう進言すると、爺様は右手を上げつつ小さく首を振って否定する。
「ジュニア。シトレ中将は優れた戦略家であり軍政家ではあるが、基本的に戦術家ではない。勿論、並の戦術家よりは上じゃが、不利な状況をあえて流すような無神経な真似は出来ん人じゃ」
「……敵が我が軍右翼部隊を挟撃してきた時、第八艦隊の後方予備戦力が即応する、という事でしょうか?」
「儂らが具申した内容に対応するだけの力が自分達にある、と考えればそうするじゃろう。ジュニアも見てきた通り第八艦隊司令部は、上官のイエスマンではなく、自分達の学んで
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