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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第92話 カプチェランカ星系会戦 その3
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最終的にファイフェルの右手の内に収まったペーパーを取り戻してからと、文面を確認する。一字一句間違えていない。
「それが如何いたしましたか?」
「一一時〇〇分とは書いておらんじゃろうな?」
「書いておりませんが」
 確かにそうは書いてない。書いてはいないが……
「……流石に強弁に過ぎませんか?」
「三〇分だろうが五九分だろうが、一一時の方角に間違いはなかろうて。のう、参謀長?」
「ボロディン少佐も書いてないと確認していることですし、それでよろしいかと」
「いや、ですが……」
「敵の中央部隊主軸を直接攻撃し、もって継続戦闘能力を奪う。ジュニア、進路を出せ!」
 
 命令となれば仕方がない。俺も爺様の指示の方が正しいと思うが、これはほとんど司令無視だろう。爺様が独立部隊の指揮官だった頃の戦績シミュレーションを思い出しつつ、敵旗艦と後衛予備兵力の中間地点を目標として、現在の陣形のまま無理なく途中で進路変更ができるルートを提示する。

「一一時三八分五五秒か……よかろう。麾下全艦にこの航路を通達せよ。第二戦速じゃ」

 爺様から渡された計算書を持ってマイクに向かって駆けだしていくファイフェルを他所に、俺は座っている爺様から手招きされた。これは俺の出した針路が爺様の本意とは若干ズレているのは分かっている。このパターンで二度爺様の鉄拳を浴びている俺としてはあんまり近寄りたくはなかったが、睨みつける視線に自然と足を前へと動かさざるを得ない。だが傍まで寄ると、爺様は座ったまま左腕を伸ばして、力強く俺の右肩を掴んで引き寄せた。

「ジュニア。儂が責任をとるんじゃから、それほど気を利かせんでもよいのじゃぞ?」
「しかし……」
「じゃが気を利かせてくれたことは感謝せねばな。士官学校の首席様はご存知かもしれんが、儂のとっておきのコツを教えて進ぜよう」

 そういう爺様の顔は、かつて査閲部で色々と言葉を交わした古強者達と全く同じものだった。俺が中腰になって顔を向けると、爺様はメインスクリーンの端っこに映る第四四高速機動集団と正面に展開している敵中央部隊のシミュレーション図を指差した。

「ジュニア、格闘技は何が得意じゃ?」
「なにが得意というわけではありませんが、士官学校では徒手戦闘術を習いました」
「ならある程度わかるな。艦隊決戦時、儂は相対する敵を一人の人間として認識しておる」
「人間?」
「頭部が旗艦と中核部隊。首が主軸戦艦部隊。腰骨が宇宙母艦。背骨や肋骨、それに関節が連絡線に位置する前衛戦艦部隊。殴る腕や蹴る足の筋肉が巡航艦部隊。指が駆逐艦や戦闘艇。まぁ大まかに言えばそんな感じじゃ」
「人間を破壊するように戦うと」
「顎先に一撃喰らわせれば人間は倒れる。じゃがそう簡単にはいかん。ジャブを打ち、ボディを叩き、フェイントを見
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