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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第92話 カプチェランカ星系会戦 その3
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おり帝国軍が撒いたデコイ群だろう。

 つまりは偽装後退した二〇〇〇隻以上の帝国艦隊にこれらの支援艦艇は含まれておらず、同盟軍側の索敵を誤魔化す為に、戦闘艦隊として部隊後衛に戦列参加していたわけだ。戦列を厚く見せて、第八艦隊司令部が右翼への増援を躊躇する位に。あえてデコイまで仕込んで。

「……向こうも観測しているだろうが、一応第八艦隊司令部にこの状況を説明しておいてくれ」

 騙されたというよりは、呆れてものが言えない爺様をよそに、モンシャルマン参謀長は俺にそう命じた。簡単な報告書と観測データを添付して、旗艦ヘクトルに送るよう通信オペレーターに頼むと、ほとんど時間差なくそのオペレーターがヘクトルからの通信文を手渡した。

「第四四高速機動集団は、左舷一一時の方向に進撃しつつ、展開して敵を半包囲し掃討せよ。以上です」

 通信文を受け取ったのが俺であるので、面倒なのでファイフェルではなく俺が直接司令部で報告すると、爺様もモンシャルマン参謀長も、モンティージャ中佐もカステル中佐も、それどころかファイフェルまで、一斉に溜息をついた。

「ま、このまま直進するのも、一一時の方向に向かうのも、砲撃目標が右に多少ズレるくらいじゃから別に構わんのじゃがな……」
「しかし半包囲ということは、第八艦隊の主力も前に出るということになりますが」
 モンシャルマン参謀長の反問通り、我々は二〇〇〇隻未満の戦力である以上、単独で敵中央部隊を半包囲することなど物理的に無理なので、第八艦隊と合同でということだろうが、その第八艦隊にそんな戦力の余裕が到底あるとは思えない。第四部隊が想像以上の活躍をしているとはいえ、第三五三独立機動部隊と第四一二広域巡察部隊はほぼ壊滅状態。そちらのフォローの方が第八艦隊には求められているはずだ。

「好意的に考えれば、敵主力の後背に我々が動くことで敵全体の戦意を低下させ、もって敵を撤退に追い込む、ということですが」
「そういう期待を持つのは構わないが、なされるかどうかは敵に聞いてもらうしかないな」

 辛辣な表情で辛辣なセリフをモンシャルマン参謀長は吐く。敵中央部隊の戦力が有効な戦闘力を維持している間は、敵の撤退など考えられない。半包囲態勢を敷くために現在の陣形を変更する時間をかけるくらいなら、このまま直進して敵中央部隊に致命的な一撃を与えた方が、より早く決着がつくのではないか。だいたい不用意な陣形拡大は、敵に対し付け込む隙を与えることになると言って第四四高速機動集団を批判していたのは彼らで、そもそも付け込んだ敵を倒せるだけの手当てがあるのか?

「ジュニア!」
 口をへの字に曲げた爺様が、荒々しい声で俺を呼ぶ。
「第八艦隊司令部は、本当に『一一時の方向に進撃し』、と命じておるんじゃな?」
「ええ、はい」
 
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