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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第92話 カプチェランカ星系会戦 その3
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、探知できる艦艇の位置が重層的になって敵右翼部隊の右半分に絞られてしまう。

 どうやってその位置に達したかはフィンク中佐達が生還した時に聞いてみたいが、発信した位置であれば敵右翼部隊に限らず、敵艦隊全体を満遍なく視野に収めることができる。それでいて天頂方向ではなく天底方向にいるので、敵の死角も多くて隠れやすい。実にセンスのある位置だ。勿論バレたらただでは済まない位置でもある。

「追記があります。敵中央部隊の支援艦艇群一〇〇〇隻と思われる集団の光変異率がやや小さい。偽装の可能性あり、とのことです」
「具体的には?」
「そこまでは記載されておりません」

 モンシャルマン参謀長の問いに、ファイフェルは困ったような顔で応える。あくまで送られてきたデータを説明しているだけだ。フィンク中佐としてはあくまで見たものを報告しているだけで、司令部に注意を促し、判断の材料にしてほしいとのことだろう。だが敵中央部隊の支援艦艇群が仮にデコイによる偽装部隊だったとして、それにどういう意味があるのか?

「仮にデコイだとして、実際の輸送艦や工作艦は何処に行ったか」
「……すでに交戦域を離脱した可能性もあると?」
「ボロディン少佐、重力波観測による敵陣形の変異を時系列で表示してみてくれ」

 モンシャルマン参謀長の指示通り、俺はデータを集めて三次元投影機に入力していく。砲火が開いてからの双方の動きを、探知している範囲でシミュレーションする。やはり後方に位置していた支援艦艇の一部が、ヴァルテンベルク艦隊の後退に合わせ一時的に前進して合流。その数時間後に再分離して後退し、定位置に留まる部隊とイゼルローン方面への跳躍宙点方向へ移動する部隊に分かれ、探知範囲から消えた。少し離れたところに立っているブライトウェル嬢を含めた七対一四個の瞳が、三次元投影機の中で繰り返し移動する支援艦艇群の動きを追い続けている。

「会戦の隙間におけるごく常識的な補給・修理活動のように思えるが?」

 シミュレーションが三度繰り返された後、眉間に皺を寄せつつカステル中佐は呟くように言う。一時的な戦線収縮に合わせて輸送艦が各艦に補給し、工作艦が戦闘不能な艦艇を引き摺って後方へ下がる。自力航行可能な損傷艦艇は戦域を離脱し、味方の後退を待つかイゼルローンなりの後方の基地へと後送されていく。帝国軍全体が後退している以上、何ら不思議ではない行動だが……

「一〇〇〇隻ないし一五〇〇隻近い数の艦艇を一度に後送させるほどの痛撃を、我々は帝国軍に与えたのでしょうか?」

 再分離する前までに前線から後退した艦艇数は三〇〇〇隻近い。分離後残った艦艇が仮に後方支援艦艇として事前に観測されたそれらは約一五〇〇隻。つまり後送され探知範囲から消えた艦艇は一五〇〇隻近くになる。この数は実に微妙。

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