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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第92話 カプチェランカ星系会戦 その3
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 宇宙歴七九〇年 二月二七日 一六〇〇時 ダゴン星域 カプチェランカ星系

 第八七〇九哨戒隊を偵察に出してから一時間。こちらは特に有効な一撃を放っていないにもかかわらず、敵は未だに後退を続けている。

 砲撃戦が行われているのは現時点で右翼部隊だけだ。勿論砲撃射程に敵を捕らえているのが右翼部隊だけであるというのもあるが、敵の右翼部隊の後退が著しく、第四四高速機動集団が前進しても最大射程より遠くにあって、現時点では攻撃しようがない。
 
 急速前進すれば有効射程内に収めることができるが、それでは第八艦隊との連携が取れず、孤立する恐れがある。既に第四四高速機動集団は自分達が敷設した機雷原を超越している。背後に回り込まれない利点はあるが、同時に撤退もまた難しい。

「敵の行動はあまりに不可解すぎる」
 
 ある程度距離が近づいてからでないと敵の実戦力は分からない。丁度アトラハシーズで俺達がメルカッツ相手にデコイで誤魔化したように。それを調べる為に第八七〇九哨戒隊を送り出したわけだが、隠密哨戒中とあってこちらから誰何するわけにはいかない。

 戦意がないというのであれば、早々に順次反転して後退していけばいいのに、戦列はしっかりと維持されている。第八艦隊司令部からも慎重に攻撃せよと命令が出ている。ダラダラと続く軽いワンサイドジャブの打ち合いに、将兵に限らず俺もストレスが溜まっている。

「戦艦アラミノスより、圧縮通信が届きました」

 戦艦エル=トレメンドのオペレーターの声が艦橋中に響き、ファイフェルが司令艦橋から駆け出して、オペレーターから直接データを受け取った。

「観測できた敵右翼部隊戦力は総数二七〇〇隻。うち三〇〇隻は分離して後方待機している支援艦艇群、残りの二四〇〇隻が戦闘集団と思われ、六時三〇分の方角へ後進している、とのことです」
 ファイフェルが爺様の端末を利用しながら、映し出された報告書を口に出して説明する。
「通信状況はどうだ?」
 モンティージャ中佐の指摘に、ファイフェルは小さく頷いてから応える。
「想定上のタイムエラーはなく、データに『異物』は紛れ込んではいない、とのことです。発信された方向は当集団より一一時四〇分、俯角四五度三〇分。なお発信以降の第八七〇九哨戒隊の位置は不明」
 俺がそれに合わせて三次元投影機を作動させてその方角を示す。
「これはなかなか面白いところに隠れたのう」
 顎を撫でながら感嘆する爺様に、司令部全員が同意する。

『敵に見つからないように動いて、敵を探る』隠密索敵において、一番危険なのは移動経路だ。幾らレーダー透過装置があると言っても、馬鹿正直に真正面から行けば重力波探知と光変異観測でバレてしまう。かと言って集団の左翼側面から自然曲線航路を使えば移動に時間がかかる上
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