第3部
ジパング
オロチの生け贄
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ラギさんは家から少し離れた納屋らしき場所へと私たちを案内した。
「この中に娘はおります」
「こんなところにか?」
疑うようにユウリが反応する。だがそれには答えず、ヒイラギさんは無言で納屋の中に入っていった。
扉の傍にある、羊皮紙か何かで出来たランプのようなものに火を灯したヒイラギさんは、納屋の奥にある地下へと続く階段を降り始めた。
「地下室……?」
ランプの灯に照らされたユウリの表情には、疑惑の色が浮かんでいた。ユウリは音を立てないようにゆっくりと歩くヒイラギさんの後ろを警戒しながらついていくと、私たちもそれに倣い歩き出した。
「……なんだこれは」
地下へ降りると、そこには無数の壺が並んでいた。壺の中には米や野菜、保存食のようなものが入っており、中にはぴっちりと蓋がされているものもあった。どうやらここは貯蔵庫のようだ。だが貯蔵庫自体が珍しくて驚いてるわけではない。なぜ娘さんの居場所がここなのかと
、謎は深まるばかりであった。
「ヤヨイ。この方々に紹介をするから、顔を出しておくれ」
ヤヨイ、と呼ぶ母の声に、大きな壺の一つがわずかに動く。まさかと思いながらも、私たちはその壺に近づいた。そして覗き込もうとしたその瞬間、突然黒い頭が壺の中から勢いよく飛び出した。
『うわぁああっっ!?』
壺の周りにいた全員が驚いてのけぞる。壺の中から現れたのは、私と同い年くらいの少女だった。
「お、お母さん、この人たちは……?」
突然見知らぬ人たちに囲まれ怯えの色を見せるその少女――ヤヨイさんは、暗がりでもわかるくらい艶やかでまっすぐな黒髪をしていた。だがまだ幼さの残る顔立ちは、ずっと狭い壺の中に入っていたせいか、ひどくやつれて見えた。
「お前を救うためにいらっしゃった、『ユウシャ』様とそのお仲間さんたちだよ」
「『ユウシャ』? なあにそれ……」
「とりあえず、そこから出てきたらどうだ?」
目の前に立っているユウリの言葉に、はたと彼と目が合うヤヨイさん。すると見る見るうちに、彼女の顔が赤くなったではないか。
そんなヤヨイさんの態度など知ったことかと言う風に手を差し伸べるユウリ。その仕草が余計に彼女の頬を染めていることなど気にも留めずに、彼はヤヨイさんが手を伸ばすのを待った。
一方おずおずとユウリの手を取りながらも壺の中から出たヤヨイさんは、残る三人の見知らぬ人たち――つまり私たちを交互に見ると、恥ずかしそうに俯いた。
「あ、あの、初めまして。ヤヨイと申します」
それでもなにか言わなければと、鈴の鳴るような可愛い声で話す彼女はどうやら人見知りらしく、名乗りはしたもののずっと目線を下に向けている。見かねたヒイラギさんがヤヨイさんのそばまでやってきて、彼女の肩に手を置いた。
「すみません、普段滅多に人と会うことがないので
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