第三章
[8]前話
「私は」
「そう言うのか」
「生まれた時からいつもいたのに」
「それだけに絆があったな」
「そうですが」
それでもというのだ。
「私は彼を助けられませんでした」
「だから悲しむのだな」
「そうです、友だったのに」
「しかしな、それだけ想われるだけで」
「イオスはですか」
「幸せだ」
「そうですか。ですが」
それでもとだ、こう言ってだった。
キュパリッソスは嘆き悲しみ続けた、それはひたすら続き。
やがて彼の身体は緑色になってだった、細い身体は木になってしまった。その木を前にしてであった。
アポロンもまた悲しみに包まれアフロディーテに話した。
「私もまた忘れない」
「彼のことをなのね」
「そして彼の友のこともな」
イオスのこともというのだ。
「彼等の友情と共にいた幸せとな」
「悲しみを」
「その全てをな」
「そうするのね」
「そうする、永遠にだ」
神は言った。
「彼等の死を悼む」
「貴方もまた」
「忘れられようか、あの木はだ」
キュパリッソスが変わったあの木はというのだ。
「他の者の死を悲しみ」
「そしてなのね」
「その死を嘆く者の友となる」
「そうした木になるのね」
「キュパリッソスもイオスも死んだが」
彼等はというのだ。
「だがその友情と死を悼む心はだ」
「永遠に残るのね」
「私の中に。そしてあの木に」
その両方にというのだ。
「そうなる、これからはな」
「わかったわ、その想いずっと大切にしてね」
「そうしていく」
アポロンはアフロディーテにも誓った、そしてだった。
彼はその木を大切にし続け常に愛していた者と彼の友のことを想う様になった、やがてアフロディーテもだった。
愛するアドニスが亡くなった時に彼の額をその木の枝で飾った。そのうえでアポロンに対して話した。
「私もね」
「彼のことを忘れないか」
「愛情そしてね」
「悲しみと共にだな」
「そうするわ」
アポロンに深く嘆き悲しむ顔で話した、そのうえで彼女もアドニスへの永遠の悲しみを忘れないことになった。
この木は後に糸杉と呼ばれる様になった、糸杉にはこうした話もある。神々が愛情と悲しみを忘れない木であるのだ。一人でも多くの人が糸杉を見てこの話を思い出してくれるのならこれ以上の喜びはない。
嘆きの木 完
2023・4・12
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