七十五 いつかの居場所
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太陽はとうに沈んでいた。
木ノ葉の里は夕闇に染まり、街灯が至るところでチカチカと所在なさげに灯る。
街灯に群がる虫の羽音がやけに大きく感じられた。
重く立ち込めた雲の合間から覗く月はどこか冷たく陰鬱な色を纏っている。
うみのイルカの今の心境をあらわしているかのような月の光だった。
月明りに照らされた自分の影を引き摺るように、暗い街中を歩く。
今現在、自分の影を大きく伸ばす正体と同じ名を持つ、月光ハヤテ。
その正体がイルカの同僚であり仲間であり、同じアカデミー教師であったミズキだったという事実を、早く五代目火影へ報告しなければならないと頭ではわかっている。
理解しているのに、イルカの足取りはずっと、重く遅いままだった。
自ら命を絶ったミズキ。
その命の最期の灯を青い炎で更に燃やし尽くした謎の人物。
途中からミズキの前へ躍り出て、彼を楽にさせた白フードに対して、何故か怖いとも憎いとも敵意でさえ、イルカは抱くことが出来なかった。更に言うなら、奇妙な懐かしさすら覚えたのだ。
初対面であるはずなのに、妙な話だ。
得体の知れない白フードは、イルカを知っているような口振りだった。
イルカ自身はまったく身に覚えも心当たりもないのに、アカデミーの教師だとわかっているような物言いだった。
白フードが囁いた「あなたの生徒になり損なった…出来損ないですよ」という寂しげな声音が、耳に残って離れない。
溢れる疑問は尽きなかったが、声が出ないイルカの代わりに、白フードは更に言葉を付け加えた。
それは、イルカのよく知る名前で、今まさに彼がずっと気にかけている馴染みのありすぎるものだった。
「あなたが、忍びである前に良き先生で在り続けることを願う──波風ナルの良き理解者として、あの子の支えとなってほしい…あなただけは、なにがあっても」
思いもよらない名前を耳にして、反応が遅れてしまう。
けれどもイルカの口からは無意識に返答を返していた。
「ナルは俺の生徒だ。アカデミーを卒業しても大事な…大切な教え子だ」
イルカの答えを聞いて、白フードの雰囲気が、ほんの一瞬、やわらかくなった気がする。
顔は微塵も見えないけれど、眩しげに眼を細めた気配がした。
「それを聞いて安心したよ──ありがとう」
唐突な謝礼を受け、ハッ、と我に返った頃には、イルカの目の前には誰もいなかった。
ミズキが発火して自害を試みたとも、青い炎で燃やし尽くされたとも、そんな事実など無かったかのように。
ただ、無人の廃墟だけが月明りに取り残されていた。
現実からも真実からも取り残された心地で、イルカは木ノ
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