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渦巻く滄海 紅き空 【下】
七十五 いつかの居場所
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人の死に涙する。
そんな当たり前の感情など、とっくに手放していると思っていた。
あれだけ数多の人の死を積み上げておいて何を今更、と自嘲する。

自来也の死に涙する波風ナルとそっくりな相貌でそっくりな仕草でそっくりな泣き方で、ミズキの死に涙を流した己自身にナルトは驚愕した。

人の死で泣けるとは思わなかった。
なにより泣ける涙が自分にまだ残っていることに驚いた。


そんなナルトの自嘲染みた独り言を、再不斬は簡単に笑って返す。

「俺はおまえの人間らしいところが見られて逆に安心したぜ」
「…そうか」


再不斬のそんな軽い一言に、ナルトの心が僅かに軽くなる。
その視線の先で、ナルが力なく持っていた、もうすっかり溶けている棒アイスをパキン、とイルカが半分に割った。

屈んで、彼女にもう半分を差し出すその光景は仲の良い家族に思えて、本当の家族であるナルトは唇を無意識に噛み締める。
そうして、家族のような兄妹のようなやり取りをするナルとイルカから視線を背けると、彼女が購入した棒アイスに眼を留めた。

「………アイス…買えるようになったんだな…」



昔は賞味期限切れのパンでさえ売ってもらえなかった。
幼き日々、木ノ葉の里に滞在していたあの頃、本当の姿では店に出入りすることさえ許されなかった。
叩き出されるのが関の山だった。
それが今ではナルひとりでアイスを買えている。
そんな当たり前の事実にナルトは少しばかり感動すら覚えた。


ナルトの視線の先で、棒アイスを半分に分かち合いながら、ナルがイルカと談笑している。
話題は懐かしいブランコの話になったようで、ナルの穏やかな口調が遠くの木陰にいるナルトの耳にも届いてきた。



「このブランコがいつからあったのか?イルカ先生のほうが知ってるんじゃねぇの?」
「いや…俺にはおまえがいつのまにか、このブランコに座っていたことしか憶えていないよ」
「ん〜…オレだって何も思い出せないけど、このブランコに座ってたら誰かが背中を押してくれてた…そんな気がするんだってばよ」

ナルとイルカの会話から、一瞬、ナルトがハッ、と反応したのを再不斬は見逃さなかった。


「靄がかかってるみたいに何にも覚えてないけどさ、誰かがこのブランコで一緒に遊んでくれた。一緒にいてくれた。そんな気がするんだってばよ」

すっかり窮屈になったブランコを慈しむようにして、ナルが撫でる。
その様子を遠くから眺めるナルトの顔は夜の闇に紛れて、よく見えなかった。


「だからこのブランコはどうしようもなく特別で、オレにとっては大切で大事でかけがえのない大好きなモノなんだってば」
「ナル…おまえはそのブランコで背中を押してくれていた相手を待っているのか?」
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