七十五 いつかの居場所
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葉の街をとぼとぼと彷徨い歩いていた。
夜の底に沈む街並み。
枝分かれした路地の奥を抜け、薄暗い階段を下りる。
虫の音がリンリン…と夜陰に溶け込み、どこかで犬の遠吠えが夜の静寂に余韻を残していた。
この長い階段の途中には二十四時間営業の店がある。
飲み物でも買おうか、とふと顔を上げたイルカは、視線の先で今まさに思い悩んでいた本人の姿を見つけて、思わず足を止めた。
咄嗟に顔を引っ込めて、身を潜める。吹き上げてきた風がイルカの髪を軽く乱した。
暗い街にぽつん、と佇む店。
金色に輝く髪が店灯りを受けて光るのが見えた。
眩しいばかりに輝く金の髪はイルカには見覚えのありすぎるモノ。
(……ナル…?)
ミズキと出会う前に、イルカは街中で見かけたナルを一楽のラーメンに誘った。
いつもの彼女なら二つ返事で嬉々として誘いを受けるはずなのに、今日は違った。
いつになく元気のない彼女から珍しく断られたのだ。
その理由をイルカは知っている。
ナルの師である自来也の死。
その訃報を聞くなり、イルカはすぐにナルを捜した。
そうしてわざと明るく接したものの、いつも天真爛漫で元気な彼女も流石に気が滅入っていたようで、取り付く島もなくラーメンの誘いを断られたのだ。
沈んでいるナルを改めて励ましてやらねば、と考えていた矢先に、捜索願を出されている月光ハヤテの姿を見かけて、彼を尾行し、その正体を知って……今に至る。
ぼんやりと店の光を受けて佇んでいるナル。
力なくぶら下がるその手にはその店で買ったばかりの棒アイスがあった。
早くしないと溶けてしまうのに、アイスを購入したこと自体忘れてしまったかのように、ナルはぼんやりと立ち尽くしている。
イルカよりもずっと、物憂げな表情で佇んでいた彼女は、やがて店の光から顔を逸らした。
のたのた、と歩く彼女の足取りは危なっかしく、その背中は哀愁を帯びている。
声を掛けようと手を伸ばしたイルカは、そのまま、その手を下ろした。
そうして、そのまま静かにナルの後を追い駆ける。
この瞬間、ハヤテの正体がミズキだと即刻報告せねばならないという忍びの使命より、心配する大事で大切な教え子の傍へいてやるほうを、イルカは選択した。
忍びである前に教師を。
教師である前に保護者を。
イルカは優先したのだった。
足取りはゆっくりなものの、ナルは存外、歩くのが速かった。
心あらずで彷徨い歩いているように見えて、目的の場所があるようだった。
一定間隔で並んでいる街灯の間の闇に紛れて、息を潜めてナルのあとを追う。
いつもの彼女ならイルカの気配などすぐに気づいていそうだが、心あらずの今は、誰に尾行されて
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