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王道を走れば:幻想にて
第四章、その4の2:エルフの長
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いのだからな。機敏さと機転の良さで攻めるしかあるまいて」
「知ってますよ。だからこうやって闇討ちの訓練をしてるんです」
「まったく、本当にこの子は性格が悪いですよね?そのうち弓に名前をつけて溺愛するんじゃないのかと心配でなりません」
「あー・・・もしつけるなら『アイリーン』は止めておけ。不吉の名前だ」
「そもそもつけませんからっ!!なに考えてるんですか、二人とも!?・・・はぁ、ケイタクさんって、よくこんな方々と一緒に居て胃もたれ起こしませんよね」
「こんなって・・・私、そんなに悪い女ですか?」
「笑みを浮かべながら言う台詞ではないぞ、それは」

 トニアは小悪魔と形容するに相応しき意地の悪い笑みを浮かべており、熊美はそれから視線を離してミルカを見て、俄かに目を細めた。

「・・・ミルカ、手を出せ」
「大丈夫ですよ、何ともありませんから」
「いいから、出せっ」

 強引に彼の手を顕にする。血豆が掌の彼方此方に出来ており、幾つかは血を滲ませている。ただの弓の訓練にしては、それも剣が本来の得物である若い騎士の鍛錬にしては度が過ぎている。

「やり過ぎには注意しておけ、馬鹿者。剣が持てなくなるだろうが」
「ポーションと軟膏がありますからすぐに治りますよ」
「それと同じ台詞、今度何か事件が起こった時にも聞けるといいのだがな?・・・まぁ、何はともあれ鍛錬に集中するのは結構だ。ほれ、担いでやるぞ」
「そこまで大事ではありませんっ。自分で歩けます」
「遠慮しない方がいいぞぉ、ミルカ君?」
「っ、担ぎたいならこれでもどうぞっ!!」

 ミルカは無理矢理に熊美の手に己の弓矢を預け、ずんずんと宿舎の方へと戻ってしまった。年頃の少年のプライドを、些か刺激しすぎたようだ。

「全く、本当に素直じゃないな」
「あの年頃の男の子というのは難しいですぞ」
「私もそうだったのだが・・・どうにも記憶が無いなぁ・・・。やれやれ、年を取るものではないな」

 本当に困ったように口元を歪める熊美を見て、トニアはけらけらと笑みを零す。何とも人事のような浮かれ気分な態度に、熊美は微苦笑を浮かべて茜空を見やった。遠く輝く金色の空に、幾重に渡って薄い雲と色濃くなっていく藍が層を重ねており、まるで鳥の尾のように一つの雲が靡いている。夜の紫を帯び始める空には一番星の輝きと、月の照りが早くも現れており、未だ沈まぬ太陽とそっと目を合わせている。この広場に留まらず、白銀の王都中ではきっと茜色に通りが染まり、路地や影は闇のように身を潜めるのであろう。
 数羽の鳥の群れが空を渡り、からからと乾いた声を響かせた。秋は、そう遠くない所まで近付いていたのだ。

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