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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第91話 カプチェランカ星系会戦 その2
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。現時点での戦略目標は惑星カプチェランカ周辺の制宙権確保。第一〇艦隊が到着するまでの時間が被害なしで稼げるなら望外だ。

「ではカステル中佐の血圧が下がるまで我々は待機ですね」

 思わず口から出てしまった俺のジョークに、爺様も参謀長もファイフェルも一斉にカステル中佐を見つめ、視線を感じた中佐が怪訝な顔で見返してくるので、四人とも慌てて視線を逸らして含み笑いを漏らす。司令部首脳の動きに不審を抱いたカステル中佐が席を立った瞬間、索敵オペレーターの声が戦艦エル=トレメンドの空気を切り裂いた。

「味方右翼部隊が前進を開始! 後退する敵左翼部隊に攻勢を仕掛けています!」

 馬鹿な!と声を上げたのは爺様か参謀長か。確認するまでもなく俺は自分の席に駆け込んで、シミュレーションを時系列で確認すると、確かに帝国軍の後退にタイミングを合わせるように、長距離砲戦距離を維持しつつ味方右翼部隊が前進を開始しているのが分かる。

 味方右翼部隊は四つの独立部隊による混成集団。最先任になるドゥルーブ=シン准将が臨時の部隊指揮官を務めているが、部隊には同じ階級が四人もいる以上、統制に苦労しているはずだ。それでも部隊を二つのグループに分け、敵の後退に合わせて交互に前進させ、敵砲火の集中を避けつつ攻勢にでる手腕を見る限り、『中級指揮官としての』戦闘指揮能力は充分あるのだろう。

 数だけ見れば双方の戦力はほぼ互角。しかし敵左翼部隊はあのメルカッツ率いる重装部隊。火力、特に近接戦闘能力では格段の差がある。それを承知しているからこそ長距離砲戦距離を維持しているのだろうが、そもそも現時点で何故攻勢にでる必要があるのか。

 しかも右翼部隊だけが前進する形になれば、主力である第八艦隊との間に空間支配圏の隙間が生じる。敵中央部隊の戦力の方が第八艦隊より多い以上、そこに予備兵力を叩き込まれて分断、各個撃破される可能性がある以上、第八艦隊も戦力を移動させ隙間を埋めようとするだろう。右斜陣形になるだろうか。そうなると陣形が伸びて反対方向になるこちら側がより手薄になる。

「前進準備じゃ」

 同盟軍全体が右前方に引き摺られていく以上、現在位置を維持しているだけでは孤軍となりかねない。爺様は苦虫を?み潰し、命令を下した。敵の急進も考えられる上、前方には敷設した機雷原がある。

「部隊並行横隊陣を組め」

 機雷原と右翼部隊の重心点を弾き出し、その二点を結ぶ線に合わせて麾下三部隊を横に並べる。右翼部隊が前進すればするほど右斜陣形となる形だが、部隊単位での運用が簡単で敵本営との距離もあることから、敵の咄嗟の行動に対応しやすい。

 一連の計算を終えて参謀長に各部隊の移動指示案を提出し、一読された後、ファイフェルによってプロウライト・バンフィ両部隊へと伝えられる。
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