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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第91話 カプチェランカ星系会戦 その2
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早く作戦案を上級司令部に出してくれ、という要望だ。お互いの面子を守りつつ、今後の状況に対応できるような命令を出す。やはりシトレの仲裁役としての才能は高い。

 マリネスク副参謀長も軍人として無能とは思えない。開戦前の事前準備では作戦から後方支援まで理路整然と組み立てていた。しかし事前準備と異なる状況下で、戦況を見ながら即応行動することが得意ではないのだろう。特に戦力的に不利になったこと、第四艦隊が予算承認されず追加戦力が半減したことなど、想定していないことが重なり、事前会議で俺が言質を取るような真似をしたから余計な火が付いたんだと思おう。

「了解いたしました。第八艦隊のご健闘をお祈りいたします」
「貴官も老練な用兵術をしっかりとその目に焼き付けたまえ。期待している」

 あえて周囲にも聞こえるような大きな声で言うシトレのショーマンぶり。子飼いの部下同士を競わせるやり方。決して悪い方法ではないが、要らぬ嫉妬を買うのは勘弁だ。長居は無用。袖口に申し訳なさそうな表情をしたヤンが待っていたが、視線で見送りを断り、一人でシャトル乗降場に向う。

 驚異的な昇進速度で元帥まで上り詰めたヤンが、最も長く在職した階級というのが少佐というのは、第八艦隊幕僚部に問題があったからなのではないか。前線における砲撃密度が来る時よりもさらに低下した中、窓の向こうでゆっくりと傾斜していく戦艦ヘクトルの姿を眺めつつ、俺は思うのだった。





 戦艦エル=トレメンドに戻ると、帝国軍は戦列を維持したまま全面的な後退を開始し始めていた。

「おお、戻ったか。ご苦労じゃったな」

 司令艦橋に入った俺の姿を見た爺様は、椅子に座ったまま俺を手招きする。爺様も出来レースは承知の上だったのだろうが、俺の顔に少しばかり不愉快さが浮かんでいるのが分かったのか、苦笑しつつ小さく数度頷いている。モンシャルマン参謀長に視線を向ければ肩を竦めているし、ファイフェルの顔には『ご愁傷さまでした』と書いてあった。

「見ての通りだ。敵が後退している」
「逃亡でもなく、壊走でもなく、後退ですね」
「その通りだ」

司令官席のミニモニターに映るシミュレーションを見る限り、目前の敵は幾つかの部隊に分かれ、ことさら隙を見せてはいるが、どう考えても罠としか思えない。インカム片手に声を荒げるカステル中佐を横目に、モンシャルマン参謀長がシミュレーションを指差す。

「僚軍のどの部隊も敵に強力な一撃を与えてはいない。しいて言えば当部隊だが、局所的にも全体的にも、数的不利な状況は変わっていない」

 それでも帝国軍は後退している。彼らにも補給や修理が必要ではあるだろうが、攻め続けて同盟軍に消耗を強いても間違いではないのに後退している。つまりは仕切り直しと判断した可能性が高い
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