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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第91話 カプチェランカ星系会戦 その2
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ざるを得ませんでした」

 爺様なら『冒頭に数的に不利な配置をした上で、手足を縛られたまま打ち減らされろ、などという命令はごめん被る』とか言うだろうが、流石にそれは不味いと俺も分かっている。

「敵の砲火は苛烈であり、少なくとも左翼戦線を維持する為には、散開か密集のどちらかの陣形を選択する必要がありました。密集陣形を取れば敵に行動可能空間を提供することになりますので、散開陣形を選択したのは間違いではないと考えます」
「散開陣形で積極攻勢をかければ、かえって敵の猛攻を誘い、我が軍が崩壊するような事態を招くとは考えなかったのか?」
「精鋭の第八艦隊であれば、多少我が部隊の防御行動が前後しても、全体の崩壊はないと考えておりました」
「阿諛ならば不要。今回は第四部隊が冷静に対処してくれたからよいようなもので、希望的で一方的な考え方で部隊を動かすのは危険だと思わないのか?」

 阿諛の意図がなかったと言えば嘘になる。だが『希望的で一方的な考え方』というのは言い過ぎだ。上級司令部の言う通りに兵を動かして、漫然と被害を出すだけの中級指揮官など存在することすら許されるものではない。そこまで突っ込んでくるなんてこれって出来レースのはずじゃなかったのかと戸惑った俺に、マリネスク副参謀長は嵩に懸かって問い詰めてくる。

「上級司令部は常に戦場全体を俯瞰して命令を出している。中級司令部が独自の判断で行動することは、戦局全体の不用意な混乱を招き、ひいては戦略的な敗北を招くと貴官は考えないのか?」

 それはお前らの視野が狭いだけでなく艦隊統率能力に問題があるからだろ、と言えればどれだけ楽か。シトレがさっき仄めかしたことをもう忘れたのか。それともこれも含めて出来レースであるというのか。口を閉じたまま、周辺視野でマリネスク副参謀長の向こうにいるシトレを確認すると、『それは少し筋違いではないか』と若干困惑しているようにも見える。ということは、これは副参謀長の勇み足か……

 シトレとロボス。双方とも将器であって、のちに統合作戦本部長と宇宙艦隊司令長官になるわけだが、両者の人格に明確な差があってもシトレ派がロボス派を圧倒できないのは、マリネスク副参謀長に見られる幕僚集団の杓子定規な高級官僚的思考が、爺様のような実戦部隊指揮官達に受け入れられていないからなのではないだろうか。シトレはそれを幕僚達に認識させる為、爺様やモンシャルマン参謀長のようなベテランではなく、あえて同類に近くさらに若輩の俺に諫言させようとしているのではないか。

 ならばもう我慢する必要はないだろう。思い上がりと言われようと、ヴィクトール=ボロディン原作・ルイ=モンシャルマン編曲・アレクサンドル=ビュコック指揮のコンサート序曲に対し、これ以上的外れな批判をされて黙っているのは、戦死したオケに
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