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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第91話 カプチェランカ星系会戦 その2
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官のそれだった。

「忙しいところよく来てくれた、ボロディン少佐。途中で道に迷わなかったかね?」

 なんのことはない軽口だが、額面通りとってはいけないと思わせる口ぶりだ。それでいて話のとっかかりを求めるものでもある。イエス・ノーの端的な返事ではない、微妙な回答をシトレは欲している。

「ヘクトルまでは順調でしたが、ヘクトルの中でちょっと迷いまして」
 小さな笑みを浮かべて回答すると、俺を見るシトレの目の色が少し変わり、右の口先が小さく動く。よく意図を察した、と言わんばかりに。
「そうだろう。エル=トレメンドとは違って、この船は私同様にいささか図体が大きいからな」

 ハハハハッと明らかに上っ面ではあるが、声に出して笑うシトレに、表情に特徴のないラスールザーデ参謀長も怒気溢れるマリネスク准将も、一瞬気が削がれたように見える。『第八艦隊は図体がでかくて機敏に動けないが、第四四高速機動集団は小さく小回りが利いてよく動いてくれている』とシトレが言外に言っているのだから。

 つまりこの出来レースの召還はシトレとしては本意ではなく、副参謀長にも一定の道理があるので適切に流してくれと言うことだろう。上官の意図を察したマリネスク副参謀長としては、あまり強く出ては不味いと思ったのか睨む力を弱めつつ、軽く咳払いしてから俺に口を開いた。

「貴官を召喚したのは他でもない。開戦からこれまでの、第四四高速機動集団の行動意図を聞きたいからだ」

 当初予定では正面砲戦を継続しつつ、第一〇艦隊が到着するまで、敵の出方に合わせてなるべく遅滞的な行動をとるよう命じていたにも関わらず、何故敵の右翼部隊を挑発し、大規模な機雷戦を仕掛け、味方を巻き込むような行動をとったのか。また逆に混乱する敵部隊に対する追撃の手をなぜ緩めたのか。

「何らかの理由があってと考えるが、それはどういう理由か。説明してもらいたい」

 言葉は丁寧だが、釈明しろと言っていることに変わりはない。俺は少佐で、副参謀長は准将と地位に差があるとはいえ、確かにこの問答では爺様やモンシャルマン参謀長が相手だったらとんでもないことになる。俺は腹の奥底で溜息を押し殺しつつ、頭の中で言葉を選んでから口を開いた。

「当集団の行動意図につきましては、事前会議における方針に沿っていると、小官も第四四高速機動集団司令部も考えておりますが……」

 明白すぎる反対意見に、当然の如くマリネスク副参謀長は噛みついてくる。

「上級司令部としてはとてもそうは考えられない。少なくとも会戦冒頭において、第四四高速機動集団が積極攻勢に出る必要はないはずだが?」
「仰られることもご尤もです。ですが正面の敵に対して、我々の戦力は六割と数的に不利。敵にイニシアティブをとられないよう、こちらから積極的に行動せ
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