第91話 カプチェランカ星系会戦 その2
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サボタージュされては自分達が困ると言ったところか。いや……それだけではない。
「つまりこれは査問会みたいなものだな」
「査問会 ?」
「呼べば俺が出てくるのを承知の上で、甘んじて『お叱り』を受けろ、ということだろうよ」
もしも爺様やモンシャルマン参謀長が招集に応じたらどうなるか。爺様ならマリネスク副参謀長をどこであろうと面前で頭ごなしにこっぴどく叱りつけるだろうし、参謀長ならガリガリに理詰めで追い詰めて吊し上げることだろう。そうしなければ、これまでの高速機動集団の戦闘行動に対する正統性を棄損することになってしまう。
そしてそれは有力な戦闘指揮官であるアレクサンドル=ビュコックとその一党が、シドニー=シトレから離反するということに繋がる。第八艦隊司令部もその点を十分に考慮して呼び出す相手をあえて指定しなかった。爺様もそれを理解した上で、彼らに配慮して俺に命じた。同派閥のグレゴリー=ボロディンの甥であれば、それほど強く叱りつけることもないだろうと踏んで。
つまりは呼び出した側も呼び出された側も理解した上での出来レースなのだが、第八艦隊司令部として第四四高速機動集団の『命令違反』に、ひとつ釘を刺しておかねばならない、といったところか。ついでにマリネスク参謀長も俺に対してマウントでもとりたいのかもしれない。まったくとんだ貧乏くじだ。
はぁぁぁ、と溜息をつくと、ヤンも肩を竦めて応じてくる。今の俺にとって必要なのは忍耐だ。いろいろ言ってくるだろうが、なるべく当たり障りのないように応対しなければなるまい。そう胸に刻みつつエレベータを三度乗り継いで、辿り着いたのは旗艦ヘクトルの司令艦橋だった。
戦艦エル=トレメンドの司令艦橋と構造的には似ているが、両翼に伸びる幕僚席は長く二段になっており、席の数は人数に応じて三倍以上。横幅に広いのでメインスクリーンの大きさも段違い。流石はアイアース級戦艦だ。設備に金が掛かっている。
その司令艦橋の中央で、腹の中も肌も黒い長身の中将はジャケットの上からも分かる太い腕を組み、メインスクリーンに映る敵艦隊を見つめている。その周囲には三人。中年で中肉中背ロマンスグレーは、ラスールザーデ参謀長。三〇代前半のひょろ長いインド系は、司令官付副官のヴィハーン大尉。そして俺が来たことにいち早く気が付いた副参謀長マリネスク准将は、赤土色の瞳で俺を睨みつけてくる。
「第四四高速機動集団次席作戦参謀、ヴィクトール=ボロディン少佐。お呼びとのことで司令部を代表し、まかり越しました」
力を入れず自然な感じで、しかもケチのつけようのない一三〇点の敬礼で俺が告げると、シトレは半身になって軽い感じで答礼してくる。しかしその顔はハイネセンの料理店で見せた陽気な親父面ではなく、戦場における冷静沈着な艦隊指揮
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