本気の勝負
[3/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
悟していたものの、可奈美は腹の底で何かが蠢くのを感じた。
「……やっぱり、すごいな。こんなこと、誰かに言うの、すっごいビクビクしてる」
ハルトはそう独白した。
見れば、彼の足は短く震えており、言葉を一つ一つ口にするのさえ遅かった。
「俺……さ。今度みんなと会った時、言おうって……自分がファントムだってちゃんと言おうとしてたんだけど、やっぱダメだな。どうしても……隠したいよ」
前回見たのはいつのことだったろうか?
ハルトが、苦しんでいる。泣いている。
いつも飄々としていて、余裕を示すハルトが、言葉一つ一つを絞り出そうとしているように見える。
「……うん」
相槌を打つ以外の対応が思いつかない。
ハルトは、決して可奈美と目を合わせない。そんな彼へ、ハルトは少しずつ近づいていった。
「俺は、今の自分を許せない。人の命を奪った自分が。松菜ハルトって名前の子供を殺して、のうのうと生きている自分が」
「……初めて。かな」
ハルトの右肩に、可奈美は同じく右肩を当てる。
お互いに反対方向を向きながら、ただ右肩だけが、お互いの温もりを感じていた。
「ハルトさんが、自分のことを教えてくれたの」
「そう、だね」
ハルトは頷いた。
可奈美は目を細めながら、両腕でハルトの右腕に触れる。
「それじゃあ、ファントムのハルトさん……でも、今まで沢山のファントムと出会ってきたけど、ハルトさんは全然、他のファントムと違うよね」
「何も変わらない。俺も、俺以外のファントムも……」
ハルトの声が震えていく。
「ファントムは、人の絶望から、宿主の人間を食らって生まれてくる……希望を持って生きる人を見るだけで、俺は苦しくなった。家族も、友達や恋人も……! 俺が大道芸を始めたのも、人々に一瞬でも笑って欲しいからだよ」
「……」
今まで、可奈美は何度も、ハルトの芸を見てきた。
その最中、人々は笑顔になり、希望を感じた時もあった。
その時、果たしてどれだけの不快感が彼を襲ったのだろう。
そしてそれは、彼がファントムであるという他ならない証拠でもある。そしてそれを、可奈美……否、誰も一度もそれを感じなかった。
「そこも、ハルトさんがファントムって事実に関係しているんだね。多分……これ以上、私が何を言っても、ハルトさんの心は晴れないと思う」
可奈美はぼそりと呟いた。
「でもさ。全部、私が知ってるハルトさんだよ」
一瞬、ハルトと可奈美の間に沈黙が流れる。
可奈美は、体を動かして、ハルトから離れる。元いた、坂の下へ向けて歩き出していった。
「一緒にラビットハウスで暮らす日々も、本当に楽しかった。これはきっと、本物の松菜ハルト君じゃない。今私
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ