第三章
[8]前話
「尚更いいぜよ」
「そうじゃのう」
「これはいいぜよ」
「これなら殿さんも文句言えんぜよ」
「早速そうして食うぜよ」
皆まさにと膝を打ってだった。
そのうえで食べはじめた、すると。
「おお、これはのう」
「まっこと美味いぜよ」
「刺身じゃないしのう」
「これなら大丈夫ぜよ」
「しっかり食えるぜよ」
「問題なしぜよ」
食べて言った、こうしてだった。
この食べ方は忽ちのうちに土佐に定着した、それを聞いてだった。
一豊は最初何とまあと思った、だが。
すぐにだ、笑ってこんなことを言った。
「いや、これはこれでな」
「よいですか」
「生ものでないのなら」
「刺身を食っていないのなら」
「炙っておる」
火を通しているというのだ。
「それは事実でわしもな」
「とことん焼けとは言われませんでしたな」
「煮るにしても」
「ただそうして食せよと言っただけで」
「そこまではでしたな」
「そうであったからな」
それ故にというのだ。
「ただ表面を炙っただけでもな」
「それでもよいですか」
「鰹についても」
「それで食っても」
「これはよい頓智じゃ」
一豊は笑ってこうも言った。
「しかもこれで食うとな」
「美味いそうですな」
「炙った鰹は」
「どうも」
「それならよい、ではな」
一豊は家臣達に話した。
「あの炙った鰹、たたきといったな」
「はい、鰹のたたきです」
「そう呼ばれています」
「あの鰹の料理は」
「あれを食うのはよい」
笑っての言葉だった。
「これからもな、それを許すぞ」
「わかり申した」
「それではその様にしましょう」
「そうしましょう」
「それではな」
こう言ってだった。
一豊は民達が鰹のたたき表面を炙っただけのそれを食うことはよしとした。これが鰹のたたきのはじまりであり今も食べられている。面白い逸話なのでここに紹介させてもらった。一人でも多くの人が読んで頂ければ作者冥利に尽きる。
鰹のたたき 完
2023・3・13
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