第二章
[8]前話
「けれどな」
「健康だからかい」
「ああ、何かあったら使え」
「いいのかい?」
「いいんだよ、これまで悪いことばかりしてきたんだ」
如何にもその筋の人間という顔で言うのだった、大柄で中肉で雰囲気も服装もまさにそうした筋の人間である。
「だからな最後位な」
「いいことをかい」
「させろ、いいな」
こう言ってだった。
幸二郎は二人の為にドナー登録をした、そして自分の組と敵対する組の抗争で率先して襲撃に参加してだった。
頭を撃たれて死んだ、彼は防弾チョッキを着ていたので心臓や腎臓は無事だった。それで早速だった。
その心臓と腎臓が海と空に移植されることになった、しかも幸二郎は自分の遺産を全て手術代だけでなく入院費用にも回していた。
親戚中から集めてもらった金はいらなくなった、こちらは返す予定だったがそのこともなくなった。それでだった。
夫婦は二人でだ、こう話した。
「まさか兄ちゃんは」
「そうね、あの子達のことを聞いてね」
「最後の最後にな」
「助けようと思ったのかしら」
「兄ちゃん子供の頃からどうしようもなかったんだ」
夫は妻に話した。
「喧嘩や万引きばかりして」
「いいことしてこなかったのね」
「それでああなってね」
ヤクザ者にというのだ。
「それからもだったけれど」
「最後の最後に」
「うちの子達を助けようと思って」
「全部してくれたのね」
「そうだろうな、悪い人だったけれど」
それでもとだ、夫は妻に言った。
「あの人のお陰でな」
「うちの子達は助かるわね」
「二人共な」
こう言うのだった、そしてだった。
子供達は無事に助かった、そうしてすくすくと育っていったが二人共幾つになっても幸二郎のことはこう言った。
「いい人だったよ」
「僕達はあの人のお陰で助かったんだから」
「心臓も腎臓もくれたんだ」
「そして手術代まで用意してくれたんだ」
「ヤクザ屋さんで悪いことばかりしていたけれど」
「僕達にとっては救い主だよ」
心から言うのだった、そして年老いて二人がそれぞれ世を去るまで彼への墓参りを続けた。両輪の墓にもそうして彼のそちらにもそうした。心からの感謝を込めてそうした。
ヤクザ屋さんから貰った命 完
2023・7・17
[8]前話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ