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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第90話 カプチェランカ星系会戦 その1
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「いいじゃろう。まるで別の誰かが作ったような行動案じゃが、儂らができる限界をよく見極めておる」
 見終わった爺様は、顎を撫でながら小さく数度頷き、一度天井を見た後、俺の肩を二度ばかり叩いて言った。
「ジュニア。一応言っておくが、師に忠実すぎる弟子は師を超えることは出来ん。今はこれでも十分じゃが、一〇年後にはこれを超えてなければならんぞ?」
「司令官閣下。もしよろしければ、一〇〇点満点の回答を教えていただければ……」
「甘えるな。それくらい自分で考えんか」
 肩を叩いていた爺様の右手が急に収縮し、即座に俺の左側頭部を襲う。思わず首を右に傾けて躱そうとするが、結局躱し切れず右頭頂部を削るように掠めた。だが床に落ちた軍用ベレーを取ってくれるであろう末席のファイフェルは、既にデータの入ったメモリを持ってオペレーター席に向かって走っていたし、モンシャルマン参謀長は自席に戻って各部隊の指揮官と直接通信していたし、カステル中佐はシミュレーションに記載された損害係数を修正しながら後方部隊と連絡を取り合っている。
 
 結局、俺の後ろで作戦説明を聞いていたモンティージャ中佐が苦笑しながら、軍用ベレーを拾い上げ痛みの残る俺の頭の上に乗せると、何も言わず二度ばかり背中を軽く叩いてくる。俺は自席に戻っていく中佐に礼を述べつつ、全身に溜まり切った重圧を全て外に出すようにゆっくりと、かつ静かに息を吐いた。

 俺の目の前で第四四高速機動集団はゆっくりとシミュレーション通りに動いてくれている。上下に拡張された三部隊は、敵右翼部隊の前衛に対して多角度で砲火を集中させる。敵右翼部隊は一時的に前進を止め、こちらと同様に上下に陣形を拡張させ集中砲火を避けようとするが、今度はこちらは各部隊を上下二つに分け、上下に伸びていく敵陣両先端辺に向けて砲火を浴びせた。

 敵右翼部隊の前衛は上下に伸ばすことに躊躇し、逆に有効射程の関係で砲火の届かない中衛と後衛は損害なく広げることに成功した為、自然と正面から見ると長方体であっても断面は楔のようになっていた。第四四高速機動集団が手の上に乗る豆腐なら、その横断面を滑って切ろうとする包丁のような形だ。多少の損害を被ろうと、このまま突き進むだけで第四四高速集団を容易に分断することができる。

 そして敵将ヴァルテンベルクは当然の如く前進を選択した。むしろ前進しなければおかしいという状況だ。それに対し第四四高速機動集団は中長距離砲戦から近距離砲雷撃戦へと転換する。ただし発射するのはレーザー水爆だけではない。集団全艦が電磁投射機能を最大出力にし、各艦の搭載する宇宙機雷の半分を集団正面左翼方向へと叩き出した。

 先に発射した一万八〇〇〇発のレーザー水爆に対して囮を発射した敵右翼部隊に、一〇万発の機雷に対する手当ては遅れた。機雷達は妨害を
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