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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第90話 カプチェランカ星系会戦 その1
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時間が経っていない現時点で、これから一五分失われる可能性のある戦力は一五ないし二〇隻。艦種にもよるが一七〇〇人から三〇〇〇人の命が失われるだろう。砂時計の砂粒はダイヤモンドより貴重だと言ったのはシェーンコップで、エメラルドと言ったのはブルームハルトだったか。本来言いたい意味も分かるが比喩表現として、今の俺にとってはたかが宝石と人の命では比較するのも烏滸がましい。

 作戦参謀として敵の作戦構想を知りたい為に、敢えて被害を出し続けるというのは理解できる。だが理解できるだけであって、今回のような付属部隊の立場であっても事前に対処できるようにしておくべきではないか。そう考えるとアスターテ星域会戦でのヤンの冴えに、凡人の俺は視聴者や読者としてではなく一軍人として改めて驚かざるを得ない。

 ともかく爺様の構想としては、敵を第四四高速機動集団と第八艦隊の隙間に引きずり込むことだ。上下に散開せよということは、高速機動集団としてはあくまでも三分隊を維持して行動させろという意味がある。すると集団右翼に位置する第三部隊(バンフィ)を底として、右を第八艦隊左翼の第四分隊(一二四〇隻)、左を集団第一(ビュコック)・第二(プロウライト)で固めるU字陣形となるように動かせと言うことだろう。

 単純なU字陣を構成するだけならばそれほど難しい計算はいらない。だが今までの被害が少ないとはいえ、バンフィ准将の第三部隊は僅かに七〇〇隻強。一方で敵右翼部隊は三二〇〇隻弱。普通ならコップの底が抜けてしまう。可能な限り第三部隊への敵の砲撃面積を減らしつつ、敵が喜んで突撃してくるような形に持っていくには、半包囲の形に知恵を使う必要がある。

 並列散開陣形から半包囲までの構想から、第八艦隊第四部隊が最小限の回頭で効率的な砲撃ができる位置へ誘引する為の、第四四高速機動集団各部隊の動きとそれに伴う損害想定を三次元シミュレーションに落とし込むまでに一二分三〇秒。画面を見つつひたすらキーボードを叩いている最中、何となくではあったが俺の右脇にフィッシャー師匠がぼんやりと立っているような感覚があった。

 まだ師匠は神様になったわけではないから、こういう場合は生霊というのか。俺が打ち込む作業一つ一つに師匠の視線が向けられ、時折指を画面に向けて『それは良手ではない』と忠告する声が聞こえてくる。その指摘が部隊の将来移動空間の余裕の無さであったり、可能であっても部隊練度レベルを超える移動距離であったりといちいちもっともだったので、狂信的艦隊機動戦原理主義過激派である俺もついに『本物の狂信者』になったと自覚せざるを得ない。

 出来上がったシミュレーションを爺様と参謀長とファイフェルの前で説明する。我ながらに過激な案だとは思うし、巻き込まれる第八艦隊第四部隊はいい迷惑だろうが、勝算は十分にある。
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