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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第90話 カプチェランカ星系会戦 その1
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様は一度だけ鼻を鳴らすと、目の前の画面に映し出される集団の被害状況と戦況シミュレーションを見比べてから思考に入った。第八艦隊司令部は戦力比から敵の出方に合わせて動こうという、どちらかというと消極的な戦闘指揮をしている。これは爺様の性格からして忍耐を必要とする状況だが、逆に積極的に動いてシトレの戦術構想を崩してしまうのも避けたいと考えているのかもしれない。

 俺はこれまでの実戦において作戦における最上級司令部に所属する幕僚であって、別の司令部の麾下に入ったことはなかった。作戦立案において勤勉さを求められても服従を求められることは、直属の上司以外にはなかったと言っていい。しかもリンチにしても爺様にしても、それなりに理解力のある上司であっただけに、相当に恵まれた立場であったのは間違いない。いきなりムーアみたいな奴が上官だったら、俺の転生人生は前世以上に真っ黒だったろう。

 しかも直属の上司以外に上層部のある戦いは初めてだ。上級司令部が構想している作戦に対して麾下部隊が独断で動くようなことは、結局バーミリオン星域会戦のトゥルナイゼンのように戦術レベルでの戦線崩壊を招きかねない。だが司令部の構想を維持しつつ戦力とテリトリーを維持せよというのは、中間司令部の悲哀というべきだろう。

「ジュニアは散開陣形をとれ、と言いたいのじゃな?」

 問いかけからまるまる二分。少し離れたところにいた巡航艦が爆散し、エル=トレメンドの艦橋内部に閃光と微振動を引き起こしたタイミングで、爺様は口を開いた。

「散開陣形を取れば被害は低減できるが、貴官も想定するように帝国軍の積極攻勢を招くことになるじゃろう。現時点でこちらから敢えて敵の攻勢を誘引する必要性があるのか?」
「このままの状況があと六時間続けば、正面敵右翼部隊との戦力比は一対二を超えます。その時点で敵右翼部隊が積極攻勢に出れば、阻止することは困難です」
「余裕があるうちに敵の勇み足を誘え、そう言いたいんじゃな?」
「はい」
「第八艦隊から一〇〇〇隻程度の増援があれば、その勇み足を払って、さらに踏みつけることは可能か?」

 爺様の言葉に、俺は思わず爺様の顔を凝視してしまった。爺様も俺の方にまるで一〇代の悪戯小僧のような不敵な笑みを浮かべている。つまり爺様も『後の先』を考えていたわけだ。現時点で第八艦隊が増援を出してくれるはずがないが、『敵が積極攻勢に出て第四四高速機動集団の陣形が乱れ、敵右翼部隊に突破される可能性を阻止する』為に、『第八艦隊が防御的措置を取らざるを得ないように敵を誘導しろ』、と爺様は言いたいのだろう。

「ジュニア、一五分でやれ。モンシャルマン、ジュニアの作戦案をチェック次第、集団全艦を散開陣形に変更。上下に広げるんじゃ」
「「了解しました」」

 砲門が開いてそれほど
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