第90話 カプチェランカ星系会戦 その1
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を横目に、俺はメインスクリーンに映る光点を見つめた。第四四高速機動集団の残存戦力は戦闘艦艇だけで一九七八隻。正面の三二〇〇隻の六割程度の戦力しかない。戦闘能力に余程の差がない限り、まともに撃ち合うのは時間と兵力の浪費というもの。それくらいはこの戦いを指揮することになるシトレをはじめとした第八艦隊司令部も理解していると信じたい。
「正面の敵右翼部隊までの距離、六.八光秒。機動集団基準有効射程まで三分!」
「集団全艦、長距離砲戦用意。目標正面敵右翼部隊。交互射撃」
モンシャルマン参謀長のいつもよりやや低い声が、戦艦エル・トレメンドの吹き抜けに木霊する。雛壇の下になる戦闘艦橋からは、副長と各班長の最終確認が行われる声が聞こえてくる。砲門開放よし、長距離砲撃照準システム正常確認よし、レーザー水爆発射準備よし、敵味方識別信号システム正常確認よし、エネルギー中和磁場正常稼働中、スパルタニアン発進待機態勢確認……
「第八艦隊司令部より砲撃司令あり!」
ブザーと共に若い通信オペレーターの声が響く。それから一呼吸おいて、爺様の砲撃命令が下される。
「撃て!(ファイヤー)」
相変わらず老人とは思えぬ迫力と圧力を持つ声に、ビビりながらもファイフェルが復唱し、戦艦エル・トレメンドはメインスクリーン真正面に二本のビームを数秒おきに吐き出す。続いて直衛戦艦部隊、第二・第三の旗艦部隊、麾下の巡航艦・駆逐艦達も砲撃を開始する。だが戦艦エル・トレメンドの交互射撃が二巡目に入るタイミングで、敵右翼部隊の砲火が第四四高速機動集団に襲い掛かってくる。
可視光として見えないエネルギー中和磁場と敵の砲火が激突し、火花と煌めきをスクリーン一杯に映し出す。戦艦エル・トレメンドが集団の重心位置にある以上、敵右翼部隊もそれなりに『気を使って』砲撃しているという感じだ。周辺にいる直衛の駆逐艦が浴びせられた砲撃による膨大なエネルギーに中和磁場を破られ、一瞬何事もなかったように直進したものの、数秒後に純白の光点となって煌めいて消える。
戦艦エル・トレメンドは第一部隊中央戦闘集団の前七列中央に位置している。その位置まで濃密な砲撃が届くということは、砲撃面火力でかなりの差があると言わざるを得ない。つまりは敵の集団戦闘能力は極めて常識的で、このまま何もせず手をこまねいていれば数の差でジリ貧になる。
「ボロディン少佐」
爺様の左隣に立つモンシャルマン参謀長が、厳しい目つきで俺を手招きする。七割の冷静さと二割の怒りと一割の焦りを混ぜたような参謀長の声色に、俺はすぐさま席を立って爺様の傍に向かう。爺様はいつものようにメインスクリーンをじっと無言で見つめている。ファイフェルも同じように直立不動でスクリーンを見ているが、横目でチラチラとこちらを見ているのは、周辺
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