第90話 カプチェランカ星系会戦 その1
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を滾らせていたモンティージャ中佐の顔は、いつも通りの瀟洒で剽軽なものに戻っている。カステル中佐は我関せずと顔を背けつつも眼だけはこちらを向いているし、珈琲を飲みほしたモンシャルマン参謀長の血管も平常位置に戻っている。
「出来ないことはなかった。戦果拡大を目論むならば、それも一つの手だと思う」
第五次イゼルローン攻略戦で、シトレが見せた積極的な攻勢。要塞砲を使用できなくする為の急進並行追撃は、あわや要塞陥落という状況まで帝国軍を追い詰めることに成功する。追い詰められた指揮官こそ、現在帝国軍右翼部隊を指揮するヴァルテンベルクだ。
「だが並行追撃は追撃を仕掛ける方が仕掛けられる側より、圧倒的に数的優位にあることが前提だ。近接戦闘とは一対一のドックファイトを集団規模で行っているだけに過ぎない。数がそのまま力の差になる戦い方だ」
まず現状として全体でも局所でも数的に不利なこと、同盟軍と帝国軍では搭載される単座式戦闘艇の数で差があること、追撃を行うには第四四高速機動集団の疲労度は高いこと、そして適切なタイミングで第八艦隊から増援が来るとは到底思えないこと……
もしメルカッツの率いるような重火力艦隊であったなら、艦艇数の差を単座式戦闘艇や雷撃艇によって埋めることができるので、また話は違ってくる。だが長駆遠征の上、二回の会戦をこなして艦艇にも兵員にも疲労が蓄積されてる、正規艦隊より軽編制の高速機動集団にはとうてい無理な話だ。
「儂はどうでもいい命令でささやかな休息を邪魔されるのが一番嫌いじゃ」
ここまで一言もしゃべらなかった爺様が、欠伸交じりで言った。
「まだ何か言ってきたら、ジュニア、貴官が説教してやれ。数的不利でありながら差し引き七〇〇隻以上の損害を敵に与えているのに、同数の皆様方はなに手をこまねいているのですか、とでも言ってやれば、少しは自覚するじゃろう」
そんな喧嘩の売り方は爺様しかできませんよ、と応えるほどに空気の読めないわけではない俺は、了解しましたと答えるだけに留めるのだった。
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