第三章
[8]前話
「これで笑わせてくれます」
「そうですか、いやこれは」
氏政も笑いつつ話した。
「実によいですな」
「宴の場には」
「まことにです」
家康にさらに話した。
「面白い、いや徳川殿は優れた家臣を多く持たれていると聞いていますが」
「その中にはです」
「こうした御仁もおられるのですな」
「左様であります」
家康は氏政に話した。
「こうした者もいるということで」
「ですか、こうした御仁をです」
氏政は笑ってこうも言った。
「家臣に持つ徳川殿は果報ですな」
「そう言って頂けますか」
「はい、では引き続き」
忠次の海老すくいの踊りを見つつ言った。
「この踊りを見て宜しいでしょうか」
「そうですか、では」
家康は忠次にも声をかけた。
「よいか」
「はい、それでは」
忠次も応えそうしてだった。
海老すくいをまた歌って踊った、すると今度はだ。
北条家の者達も囃した、宴は実に楽しいものとなり。
氏政は満面の笑顔でだ、家康に言った。
「これからも親しくいきましょうぞ」
「そう言って頂けますか」
「そしてまた宴があれば」
その時はというのだ。
「酒井殿にはです」
「海老すくいをですな」
「してもらいたいですが」
「そうですか、お主もよいか」
家康は忠次に声をかけて問うた。
「そうして」
「喜んで、それがしも自慢の海老すくいを見て頂けるなら」
忠次も笑って応えた。
「是非共」
「それではな」
「はい、また機会があれば」
忠次は笑顔で言った、そうしてだった。
忠次は機会があれば海老すくいを歌って踊って場を明るくした、政でも戦でも徳川家の柱であったが宴でもだ。
それで家康は言うのだった。
「全く以てわしは果報者じゃ」
「それは何故でしょうか」
「常によい家臣達が周りにおってな、天下一の果報者じゃ」
いつもこう言った、それも笑顔で。そして忠次の海老すくいを見てそのうえでいつも笑顔であり続けたのだった。
剽軽酒井 完
2023・1・12
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