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剽軽酒井
第一章

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                剽軽酒井
 酒井忠次は徳川家の家臣の中でも筆頭格とされている、今や三河の一領主ではなく三河に遠江、駿河、甲斐、信濃と五つの国を治めるまでになった天下に比類なき家となった徳川家のそれであるとされているのだ。
 徳川家には四天王があり家臣達の中でも一際格上とされているが忠次はその四天王でも筆頭とされている、言うまでもなく家康からの信頼は絶対のものだ。
 だが家康はこの自分より年上の重臣に公の場以外ではいつも砕けた態度で接していた。
「全くお主は面白い男じゃ」
「ははは、またそう言われますか」
「実際に面白いからのう」
 それでというのだ。
「だからじゃ」
「そう言われますか」
「うむ、だからまたな」
「宴の時にですな」
「あれをやってくれるか」
「殿がそう言われるなら」
 忠次は笑って応えた、何処か丸みを帯びた顔で口髭も厳めしいというよりかは剽軽な感じだ。顔立ちは穏やかである。
 その顔でだ、忠次は家康に笑って応えた。
「そうさせて頂きます」
「今度北条家とじゃ」 
 家康はあらためて話した。
「盟約を結びな」
「伊豆に行ったいえで」
「あちらの三島でな」
「そうしてですな」
「宴も開かれるが」
「我等も参りますな」
「主な家臣達は連れて行く」
 家康ははっきりと答えた。
「そうする、当然じゃ」
「それがしもですか」
「来てもらう」
 家臣の中で筆頭と言っていい忠次はというのだ。
「そうしてもらう、だからな」
「あれをですな」
「やってもらうぞ」
「畏まりました」
 酒井は家康に恭しく応えた、その後は二人で砕けた話をして共に笑い合った、そして北条家の盟約を結ぶ為にだ。
 家康は実際に主な家臣達を連れて伊豆三島に赴いた、そうしてだった。
 盟約を結んだ後で北条家の主である氏政それに北条家の主な者達と共に宴を開いた、盟約を結ぶにあたって色々な取り決めが為されたが。
 その後の宴は至って明るく笑いに満ちていた、その中で。
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