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渦巻く滄海 紅き空 【下】
七十三 正義と悪
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場所と同じ場所で、うみのイルカは声を荒げる。
落陽が廃屋を照らし、射光で別たれた明暗の中、廃屋の影の内側にいる他人の顔をした友の許へ、足を一歩進めた。

懐かしくも忌まわしいこの場では、周囲の森林にイルカの大声が吸い込まれてゆく。

「知ったふうな口を利くな…!」


俺を知っているのはあの子だけだ、と心の内でミズキは拳を握る。
伸びた爪が掌に食い込んだ。

本当に信じている存在の名を隠し、ミズキはイルカへ顔を向ける。
顔や身体つきや声や髪の色まで変わった男は、苦々しげに吐き捨てた。


「俺が信じているのは力だけだ。仲間などという曖昧な絆に縛られると思うな」
「……何故、そこまでしておまえは力にこだわる」
「それこそが全てだからだ」


イルカの言葉に、ミズキは淡々と答える。
かつては水色だった黒髪が、落陽に照らされ、墨のように益々黒く見えた。


「おまえは敵じゃない!同じ里の仲間だ…っ!」


イルカの叫びを、ミズキは鼻で嗤った。


「そういう御託はよせ」

取り付く島もないミズキの傍へ、イルカは一歩前へ再び近づく。
太陽の光を背負うイルカの一歩が眩しくて、ミズキは影の内側で静かに後ずさった。


「それに…おまえは俺の同僚で…同じ火の意志を受け継ぐ木ノ葉の家族だ」


噛んで含むように言い聞かせてくるイルカを、ミズキは見る。
眩しい光の中にいるイルカから逃れるように後退していた足が、その一言で後ずさるのをやめた。

むしろ、決意したようにミズキの足が強く地面を踏みしめる。
影の内側で。どうしようもなく一筋の光も射しこまない闇の中で。


「火の意志…火の意志ねぇ…」


イルカの向こう側に聳える木ノ葉の里。
その里全貌を恨み、憎み、睨みつける。

自分達だけが光の中にいると、火の意志が正義だと信じてやまないと、木ノ葉のみが一番正しいと、忍びの闇も影も哀しみも知らない無知な世界。

仲間主義だと謳いながら、幼な子を甚振り迫害し暴行するような腐った里の奴らは、ミズキの力を認めようとしなかった。だから相反し、里が好むお人好しで優しい性格を演じていた。
だから。

野心家で残忍な性格であるミズキを、裏の顔も本心も本音も知った上で、認めてくれたあの幼い子どもの信用と信頼を、ここで裏切るわけにはいかなかった。

己が歪んだ思想の持ち主であることは重々承知している。
だからさいごまで。


「昔のよしみで穏便に挨拶だけと思ったが…やめだ」


木ノ葉の忍びとして火の意志を尊重し、戻ってきてほしい。
そうイルカが望んでいるのはよくわかっていた。
その理想に応えることはできない。


「誰が正義で、誰が悪か」


火の意
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