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渦巻く滄海 紅き空 【下】
七十三 正義と悪
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自身が動揺した。


「…ッ、『暁』は犯罪者の集まりだろう!?現に人柱力を襲っているじゃないか!」


気を取り直して激昂する。綱手の言葉に、白フードが微かに反応を示した。
けれどそれはどちらかというと“人柱力”という語句にのみ、反応したようだった。
一瞬、複雑な面持ちを浮かべた相手は自嘲の笑みと共に、綱手に肯定を返す。


「…確かに一部はそうだろうな」
「ならば『暁』は悪だ!悪は裁かれねばなるまい」

険しい表情で睨む綱手を、白いフードは静かに見返した。
フードの陰から窺えないはずなのに、その物静かな眼差しに射竦められ、綱手の身体が無意識に強張る。


「…──果たして、本当にそうか?」
「な、に」

綱手の戸惑いに、白フードは毅然と言い放った。


「木ノ葉にとっての正義は、他の里の悪になる。誰かの悪は誰かの正義だ──…木ノ葉が正しく、他が間違っているとでも思っているのか?平和で平穏なこの里が正義だと?その平和に至るまで、他の誰かの正義を踏み躙ってなどいないと本気で言えるのか?」


木ノ葉の里を否定された気がして、ぶわり、五代目火影の誇りが怒髪天を衝いた。
握りしめた拳がチャクラを纏う。


「…だまれ…」
「人の正義は信念は理想は、全て同一ではない。各々がそれぞれに心に抱き、思い描き、行動するモノだ。故に平和とは、積み重なった誰かの正義の犠牲の上で成り立っているに過ぎない」
「黙れ…っ」


足元の水面を打ち砕き、路亭の屋根へ一気に踏み込む。
飛び上がった綱手の手は、しかしながら風を切っただけに終わった。


「それの何が悪い!?平穏になるまでの犠牲を大切に大事に想うからこその平和だ!」
「悪いとは言わないさ。だからこそ『暁』のペインも、その平和を望んでいる。やり方は間違っていてもね」
「…どういうことだ。奴は平和を乱す悪だろう」


路亭の屋根にいたはずの白フードは今や、寸前まで綱手が佇んでいた水上へ、一瞬で移動している。
反して、綱手のほうが今度は路亭の屋根の上で相手を見下ろしていた。

立ち位置は逆転しているのに、立場は逆転しているはずなのに、それでも真下の白フードから得体の知れない威圧感を感じて、五代目火影の背筋がゾワリと悪寒を覚える。

こちらが見下ろしているのに見下ろされているように感じた。






刹那、白フードの陰から覗き見える双眸に射竦められる。
綱手の足が手が顔が、全身が凍った。


「──己だけが正しいと思い上がるな」




今まで穏やかな物腰だった白フードから放たれた一言。
それは鋭利な刃物となって、綱手の心に突き刺さる。

眼には視えない言葉の刃が、心の奥底に深く、重く。



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