第二章
[8]前話
「道楽でな」
「生計を立てるんじゃなくて」
「そっちで、ですか」
「何でも前からやりたかったらしくてな」
タクシーの運転手をというのだ。
「それで家の仕事を娘さん夫婦に譲ってからな」
「隠居して」
「それで、ですか」
「その人車を集めるのが趣味らしいな」
二人にこのことも話した。
「それで昔からのな」
「そうした車も持っていて」
「それで、ですか」
「乗ってるのかもな」
こう言うのだった。
「それで君達が見たのはな」
「大地主さんの車ですか」
「個人タクシーの」
「そうかもな、その車奇麗だっただろ」
「ピカピカでした」
「汚れ一つなくて」
二人もその通りと答えた。
「車内も見えましたが」
「かなり奇麗でした」
「そうだな、そのタクシーに乗るのもな」
これもというのだ。
「一興かもな」
「じゃあ乗るべきでしたか」
「あの時は」
「また機会があれば乗るといいさ、ただよく手入れされていても五十年前の車だ」
山口はこのことも話した。
「今の車と比べると乗り心地は悪いぞ」
「だから道楽ですね」
「大地主さんの」
「ああ、世の中そんなこともあるものだろうな」
二人に真面目な顔で話した、そして後日。
二人はそのタクシーに乗る機会があった、仕事帰りそれも給料日後だったのでお金がありそれに乗った。すると。
制服と帽子でわかりにくいがこの地域の名士の老人が運転手だった、大地主でテナントがかなり入ったビルやマンションを幾つも持っていて県会議員まで務めただ。
その彼が気さくに素性を言わないで運転してくれた、二人はそうして目的地まで行ったが。
金を払って車を出てからだ、思わず苦笑いで話した。
「地元の名士さんが運転してたしな」
「何も言わなかったけれどわかるしな」
「緊張したな」
「ああ、しかも乗るとな」
「五十年前の車でな」
「乗り心地はな」
山口の言う通りだと話した、そしてだった。
二人は以後このタクシーを見付けても乗ることはなかった、後で聞いた話だがこのタクシーのことはこの地域では有名で地元の者は乗らず観光客や仕事で来た人だけが何も知らず乗っているという。二人はその話を聞いてさもありなんと思った。
レトロタクシー 完
2023・6・23
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