暗躍編 真凛・S・スチュワートという女 後編
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機能していない地域も少なくないこの国ならば、身を潜められる場所など幾らでもあるのだ。
(けれど……無意味だわ。どんな国に逃げ込もうと、どこで息を潜めようと……この私から逃げられはしないのだから)
だが、例えこの国の眼がどれほど曇っていようと、自分は決してノバシェードの影を見逃すつもりはない。特務捜査官としての地位や権限が無くなろうと、関係ない。
自分が真凛・S・スチュワートという女である限り、この戦いから手を引くつもりはない。それが、彼女自身の信念であった。
――あ、「悪魔」めぇッ……!
(……悪魔、か)
バイクのハンドルを握り直した瞬間、死に際に自分を「悪魔」と糾弾した戦闘員の呪詛が脳裏を過ぎる。
その言葉を敢えて否定せず、むしろ「褒め言葉」として受け止めていた真凛は、自嘲するように口元を緩めていた。乾いた笑みが、唇の動きに現れる。
(確かに私はもう……「悪魔」にしかなれない。けれど、「悪魔」であっても正しいと信じる道のために戦うことは出来るわ)
己の正義を通すためなら、正道から外れることも厭わない。そんな「矛盾」を背負って戦う決意を新たにした真凛は――踵を返すようにハンドルを切り、森の奥深くへと走り去って行く。その行方を知る者は居ない。
(せめてあなただけは、私よりは「利口」に生きなさい……ヘレン)
ノバシェードの改造人間とあらば、一欠片の情も持たない冷徹な女傑。そんな彼女の胸中に残された数少ない良心は、生真面目で実直な「後輩」への思慮のみであった。
自分の跡を引き継ぐヘレンのために真凛が「餞別」として譲り渡した、ワルサーPPK。その愛銃を手にノバシェードと渡り合っているヘレンは、真凛の分まで今も懸命に怪人犯罪を追い続けている。
どれほどこの手を血で汚しても、彼女のことを忘れた日はない。だからこそ真凛・S・スチュワートという女は、彼女には出来ないことを代わりに全て引き受けているのだ。
いつかヘレン・アーヴィングを守り抜き、幸せにしてくれる男が現れるその日まで、彼女の命が続くようにと――。
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