第一章
[2]次話
秘術師の救済
ライアン=ハーミットの職業は秘術師である、舞台で秘術を披露することもあれば街中に出て芸としてだった。
金を貰って生計を立てていた、ロンドンでは結構名が知られた秘術師である。
初老の男でお洒落な口髭を生やしダークブラウンの髪を奇麗にセットし知的な感じの鳶色の目と面長の顔を持ち。
いつも燕尾服にズボン、黒い革靴にシルクハットという恰好だ。そこで手品ともマジックとも言われる芸を見せているが。
その芸を見てだ、あるアジア系の客が一ポンド札をハーミットの前に置かれているお金を入れる箱の前に日本訛の英語で言った。
「僕もしたいな」
「秘術をですか」
「うん、そう思ったよ」
まだ若い彼は言うのだった。
「本当にね」
「勉強して毎日練習すれば出来ますよ」
「そうなのかな」
「はい、私も最初はです」
その若者に笑顔で話した。
「全くです」
「出来なかったんだ」
「そうでした」
こう言うのだった。
「本当に」
「そんなに上手なのに」
「いえ、本当に最初はです」
ハーミットは若者にさらに話した。
「出来なかったんですよ」
「僕の英語みたいにかい」
聞けば確かに訛はあるが流暢な日本語である。
「最初はなんだ」
「そうです、誰でも最初はです」
それこそというのだ。
「何事も全くです」
「出来ないんだ」
「そういうものですから」
「秘術もなんだ」
「そうです、私も師匠についた頃は」
自分のというのだ。
「もう全くでしたよ」
「出来なかったんだね」
「そうです、ですから」
それでというのだ。
「若し貴方が秘術をされたいなら」
「出来るんだ」
「学びそして毎日努力されたら」
それならというのだ。
「必ずです」
「そうなんだね」
「左様です」
こうその若者に話した、彼は兎角ロンドンで仕事に励んでいたが仕事が終わると馴染みのパブに行くのが常だった。
そこでいつもだ、仕事が終わって一杯やっていたが。
その時にだ、店の若い店員に困った顔で言われた。
「ちょっといいでしょうか」
「どうしました?」
「はい、実は」
店員はハーミットにエールを出しつつ話した。
「今度結婚するつもりで」
「それはいいことですね」
「そのことはいいんですが」
それでもと言うのだった。
「困っていることがありまして」
「お金のことでしょうか」
「いえ、お金のことじゃないです」
店員はすぐに答えた、見れば奇麗な黒髪で穏やかな顔で青い目の長身の青年だ。一八〇あるハーミットよりも高い。
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