第89話 自称後見人
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なら、言わなければよろしいのでは?」
「それはアレックスの薫陶か? 命が惜しかったら、そういう口は上官に向かってきかない方が身のためだぞ」
「中佐がキャゼルヌ先輩の先輩であるのはよく存じているつもりです」
中佐が階級にモノを言わせてパワハラかけるような人間でないことは分かっている。でなければ編制時にはブライトウェル嬢に対してあれだけ警戒していた中佐が、まるで親戚の兄貴分か後見役みたいな行動をとるわけがない。口は悪いし、融通の利かないところもあるが、補給のプロであり基本的には善人でもある。
「ブライトウェル嬢はまだ一六歳ですよ。普通ならハイスクールで青春している年齢です。たまたま歳の近い先輩に憧れているにすぎません」
それだけではない、とは分かっているつもりだ。カステル中佐も軍人で既婚者だから、俺の回答が敢えて的を外しているのも分かっている。彼女の将来を恩義と好意の両面から軍に縛り付けるという悪徳。だが仮に彼女が軍を辞めてハイスクールに復学したとしても、常にエル=ファシルの輝きに怯えて生きることになる。
「捨てられた子犬を拾ったら、最後まで面倒は見るべきだと俺は思うがな」
「軍属でいた方が彼女の為にもいいとお考えですか?」
「正直、俺はそう思っている」
そういうとカステル中佐は、持っていた自分のトレーをモンティージャ中佐の机の上に置き、腕を組んで正面メインスクリーンを見つめて言った。
「士官学校は大なり小なり野心のある人間が集まる場所だ。命懸けの出世レースで、相手を蹴落とす練習をする場所と言っていい。リンチの娘というのは大きすぎるハンデだ」
「しかし下士官や兵になるに比べれば、はるかにマシでしょう?」
「ビュコック閣下の従卒であれば、どんなバカでも二の足を踏むさ。違うか?」
それは確かにそうだろう。小説通りならば一〇年後のマル=アデッタまで、爺様は同盟軍の一線級指揮官として戦い続け、生き残る。その従卒であれば確かに彼女は安全であるかもしれない。それまでに『いいところの坊ちゃん軍人』と結婚でもして、軍の保護下のままに生きることもできる。
「それで後見人殿からみて、小官はご息女の結婚相手として合格ですか?」
「階級と能力と家柄はな。だが性格がダメだ。臆病者は軍人としては良い素質だが、家庭人としては最悪に近い」
「そうでしょうね」
「……即答する貴官の性根の悪さに敬服するよ。礼にお前の分のトレーも片付けてやる」
当然皮肉だろうが、カステル中佐は断りもなしに俺のトレーを手に持って、何事もなかったかのようにさっさとエレベータの奥へと消えていく。
ブライトウェル嬢が士官学校を受験するのは、多分に影響を受けたにせよ結果的には彼女自身が決めたことだ。それが正しいか、正しくないか。例え正しくな
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